
旅館・ホテルの経営コンサルタントをしていると多くの旅館経営者の方々から、「大手予約サイトからの予約は多いけれど、自社サイトからの予約が伸び悩んでいる」というご相談をよくいただきます。
確かに、大手予約サイトは集客力がありますが、手数料が発生するため、自社サイトでの予約を増やすことは、利益率向上に直結します。
今回は、自社サイトの予約率を劇的に向上させるためのWeb改善5つのチェックリストをご紹介します。
専門用語は避け、分かりやすく解説しますので、ぜひ貴社のサイトと照らし合わせながら読み進めてみてください。
1. 「旅館の魅力」が最大限伝わっていますか?:写真と動画の質・量が最重要
お客様が旅館を選ぶ際、最も重視するのは「どのような体験ができるのか」です。
これを視覚的に伝えるのが、写真と動画の役割です。
- プロによる高画質写真の導入:
スマートフォンで撮影した写真では、旅館の魅力を最大限に引き出すことはできません。
プロのカメラマンに依頼し、以下の点を意識して撮影してもらいましょう。- 客室: 広さ、清潔感、設え(しつらえ)、窓からの眺め、寝具の質感が伝わるように。複数の角度から撮影し、バスルームやアメニティも忘れずに。
- 温泉: 湯の色、泉質の雰囲気が伝わる湯気、清潔感、解放感、露天風呂であれば景色との一体感。入浴中のモデルを起用し、実際にリラックスしている様子を伝えるのも効果的です。
- 料理: 旬の食材、彩り、盛り付けの美しさ、器へのこだわり。食事風景(お客様が実際に食べている様子)も加えることで、よりリアルな体験を想像させられます。朝食、夕食、郷土料理など、提供される全ての食事について掲載しましょう。
- 共用スペース: ロビー、ラウンジ、庭園、売店、エステ、バーなど、お客様が利用する全ての場所の雰囲気を伝える写真。特に、特徴的な設えやアート作品などがあれば、それらを強調しましょう。
- 周辺観光: 旅館からアクセスしやすい観光地の写真も添えることで、旅行全体のイメージを膨らませることができます。
- スタッフの笑顔: 丁寧な接客、温かいおもてなしの雰囲気が伝わるスタッフの笑顔の写真も、お客様に安心感を与えます。
- 動画コンテンツの活用:
写真だけでは伝えきれない「動き」や「雰囲気」を伝えるには動画が最適です。- 施設紹介動画: 旅館全体を巡るように、客室、温泉、食事処、共用スペースなどをスムーズに紹介する動画。ドローンを使った空撮で、旅館の立地や周辺環境を壮大に表現するのも魅力的です。
- 料理紹介動画: 料理が作られる過程や、食材のこだわり、板長(※2)の想いを伝える動画。食欲をそそるシズル感(※3)のある映像を心がけましょう。
- ※2 板長: 料理を統括する料理人。
- ※3 シズル感: 料理などが持つ食欲をそそるような音や湯気、輝きなどの視覚的な表現。
- お客様の声・体験動画: 実際に宿泊したお客様の感想や、体験プラン(例:陶芸体験、着物レンタル)の様子を撮影した動画は、信頼性を高め、予約への後押しとなります。
- 写真・動画の配置と見せ方:
- ファーストビュー(※4)でのインパクト: サイトにアクセスした瞬間に、最も魅力的な写真や動画が目に入るように配置します。
- ※4 ファーストビュー: Webページを開いたときに、スクロールせずに最初に見える範囲。
- ギャラリー機能の充実: 多くの写真や動画を、カテゴリ分けして見やすく整理し、拡大表示機能(※5)も必ず付けましょう。
- ※5 拡大表示機能(ライトボックス): 画像をクリックすると、画面全体に拡大して表示される機能。
- SNSとの連携: InstagramやYouTubeなど、写真や動画を投稿しているSNSアカウントへのリンクを設置し、最新の情報を常に発信していることをアピールしましょう。
- ファーストビュー(※4)でのインパクト: サイトにアクセスした瞬間に、最も魅力的な写真や動画が目に入るように配置します。
2. お客様は迷っていませんか?:予約までの導線と操作性は快適か

お客様が「泊まりたい」と思ってから、実際に予約を完了するまでのステップは、どれだけスムーズで分かりやすいかが重要です。途中で迷ったり、手間取ったりすると、離脱(※6)に繋がり、せっかくの予約機会を逃してしまいます。
※6 離脱: Webサイトを訪問したユーザーが、目的の行動(今回は予約)を完了せずにサイトを閉じること
- 予約ボタンの視認性(※7):
どのページにいても、常に「予約」ボタンが目立つ場所に配置されているか確認してください。色や形で目立たせ、PC、スマートフォン両方で押しやすいサイズにしましょう。- ※7 視認性: 情報や対象物が、どれだけ見つけやすく、認識しやすいかを示す度合い。
- 予約フォームの最適化:
- 入力項目の最小化: お客様に入力を求める情報は、本当に必要なものだけに絞り込みましょう。住所や電話番号など、予約時に不要な項目は削除するか、任意入力にしましょう。
- 入力補助機能の充実: 郵便番号からの住所自動入力、カレンダーからの日付選択、人数のプルダウン選択など、お客様の入力をサポートする機能を導入しましょう。
- 進捗状況の表示: 予約が何ステップで完了するのか、今どの段階にいるのかを明示することで、お客様は安心して入力を進められます。「ステップ1/3」のような表示が分かりやすいです。
- エラー表示の分かりやすさ: 入力ミスがあった場合、どこが間違っているのかを具体的に、かつ分かりやすく表示します。例えば、「電話番号の形式が正しくありません」など。
- スマートフォン対応: スマートフォンでの入力は、PC以上にストレスを感じやすいものです。キーボードの自動切り替え(数字入力時は数字キーボードに切り替わるなど)や、タップしやすいボタンサイズなど、スマートフォンでの操作性を徹底的に最適化しましょう。
- 料金プランの分かりやすさ:
- 料金体系の明示: 宿泊料金の内訳(宿泊費、入湯税、サービス料など)を明確に表示します。不明瞭な追加料金は、お客様の不信感に繋がります。
- プラン内容の比較: 複数の宿泊プランがある場合、それぞれのプランの特徴や含まれるサービス、料金の違いを比較しやすい形で提示します。表形式などが分かりやすいでしょう。
- 空室状況のリアルタイム表示: 予約カレンダーに、リアルタイムの空室状況と料金が表示されるようにしましょう。これにより、お客様は希望の日程の空き状況をすぐに確認できます。
- SSL化(※8)による安心感の提供:
予約フォームを含む全てのページをSSL化し、URLが「https://」から始まることを確認しましょう。これにより、お客様の個人情報が暗号化され、安全に送信されることが保証されます。SSL化されていないサイトは、ブラウザで「安全ではありません」と表示され、お客様に不安を与え、離脱の原因となります。- ※8 SSL化 (Secure Sockets Layer): インターネット上の通信を暗号化し、データの盗聴や改ざんを防ぐ技術。
3. お客様は本当に知りたい情報にたどり着けていますか?:情報の網羅性と分かりやすさ
お客様は、旅館に滞在するにあたって、様々な情報を求めています。
それらの情報が網羅的で、かつ分かりやすく整理されているかを確認しましょう。
- 施設案内の充実:
- 各部屋タイプ詳細: 広さ、間取り、設備(トイレ、バス、冷蔵庫、テレビなど)、定員、アメニティの種類、眺望などを具体的に記載します。
- 温泉の詳細: 泉質、効能、源泉掛け流し(※9)か否か、浴槽の種類(内湯、露天、貸切風呂)、利用時間、混浴・男女別、清掃時間など。
- ※9 源泉掛け流し: 温泉の源泉から直接引いた湯を、一度も再利用せずに浴槽に流し続ける方式。
- 食事の詳細: 朝食・夕食の提供場所、時間、メニュー内容(アレルギー対応の可否も記載)、郷土料理や旬の食材へのこだわりなど。
- 館内設備: 売店、エステ、マッサージ、カラオケ、ゲームコーナー、コインランドリー、喫煙所の有無と場所。
- アクセスの詳細: 最寄りの駅やバス停からの所要時間、送迎バスの有無と時刻、自家用車でのアクセス方法(駐車場情報、カーナビ入力用電話番号など)。Googleマップ(※10)の埋め込みも有効です。
- ※10 Googleマップ: Googleが提供するオンライン地図サービス。
- よくある質問(FAQ)の設置:
お客様からよく寄せられる質問とその回答をまとめたFAQページは、お客様の疑問を解消し、電話での問い合わせ件数を減らすことにも繋がります。「チェックイン・チェックアウト時間」「キャンセルポリシー」「子供料金」「ペット同伴の可否」「アレルギー対応」など、具体的な質問をQ&A形式で分かりやすくまとめましょう。 - お知らせ・ブログの更新:
- 最新情報の発信: 季節ごとのイベント、特別プラン、休館日、リニューアル情報など、旅館に関する最新情報を定期的に発信します。
- 地域の魅力発信: 周辺の観光情報、季節ごとの見どころ、地元のイベントなどをブログで紹介することで、お客様の滞在をより魅力的にし、地域全体の魅力を伝えることができます。
- スタッフの日常: スタッフの紹介や、日々の業務、裏話などを発信することで、旅館の「人」の温かさを伝え、お客様との距離を縮めることができます。
- 多言語対応:
インバウンドのお客様をターゲットにする場合は、英語、中国語、韓国語など、主要な言語でのサイト対応は必須です。自動翻訳機能だけでなく、ネイティブスピーカー(※12)による翻訳で、自然で正確な情報を伝えましょう。- ※12 ネイティブスピーカー: 特定の言語を母国語として話す人。
4. あなたの旅館は、お客様の目に留まっていますか?:集客施策とSEO対策

どんなに魅力的なサイトを作っても、お客様に見てもらえなければ意味がありません。
自社サイトへの集客を増やすための施策と、検索エンジンからのアクセスを増やすためのSEO対策(※13)も重要です。
- SEO対策の基本:
- キーワード選定: お客様が旅館を探す際に、どのようなキーワード(例:「京都 温泉旅館」「箱根 家族旅行」「露天風呂付き客室」など)で検索するかを考え、それらのキーワードをサイト内のタイトル、見出し、本文に適切に盛り込みます。
- コンテンツの質: お客様にとって有益な情報(周辺観光、季節のイベント、旅館のこだわりなど)を継続的に発信し、サイトの専門性や信頼性を高めます。
- モバイルフレンドリー(※14): スマートフォンで閲覧しやすいように、サイトのデザインや表示速度を最適化します。Googleはモバイルフレンドリーなサイトを高く評価する傾向にあります。
- ※13 SEO対策 (Search Engine Optimization): 検索エンジンの検索結果で上位表示されるように、Webサイトを最適化する取り組み。
- ※14 モバイルフレンドリー: スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末で、Webサイトが快適に閲覧・操作できること。
- 表示速度の改善: サイトの表示速度が遅いと、お客様はすぐに離脱してしまいます。画像の最適化、キャッシュ(※15)の活用などで、表示速度を改善しましょう。
- ※15 キャッシュ: 一度アクセスしたWebページのデータを一時的に保存しておく仕組み。再アクセス時にページの表示を高速化する。
- SNSマーケティングの活用:
- 各SNSの特性を理解: Instagramは写真・動画で視覚的に魅力を伝え、Facebookは詳細な情報発信やコミュニティ形成、X(旧Twitter)はリアルタイム性の高い情報発信など、各SNSの特性を理解して使い分けます。
- 定期的な情報発信: 旬の料理、季節の景色、イベント情報など、お客様の興味を引くコンテンツを定期的に投稿し、自社サイトへの流入を促します。
- ユーザーとの交流: コメントやメッセージに積極的に返信し、お客様との関係性を深めます。
- オンライン広告の活用:
- リスティング広告(※16): 検索エンジンの検索結果上部に表示される有料広告です。特定のキーワードで検索している「今すぐ予約したい」お客様にアプローチできます。
- ※16 リスティング広告: 検索エンジンの検索結果ページに表示されるテキスト広告。
- ディスプレイ広告(※17): ウェブサイトやアプリに表示される画像や動画広告です。潜在的なお客様に旅館の存在を認知させるのに有効です。
- ※17 ディスプレイ広告: ウェブサイトやアプリの広告枠に表示される画像や動画形式の広告。
- SNS広告: InstagramやFacebookなどのSNS内で配信される広告です。ターゲット層を細かく設定し、興味関心の高いお客様にアプローチできます。
- リスティング広告(※16): 検索エンジンの検索結果上部に表示される有料広告です。特定のキーワードで検索している「今すぐ予約したい」お客様にアプローチできます。
- MEO対策(※18):
Googleマップからの検索で上位表示されるための対策です。「旅館名+地域名」で検索するユーザーが多いため、Googleマイビジネス(※19)の情報を充実させ、常に最新の状態に保ちましょう。- ※18 MEO対策 (Map Engine Optimization): Googleマップなどの地図検索エンジンで、自店舗の情報が上位に表示されるように最適化する取り組み。
- ※19 Googleマイビジネス: Google検索やGoogleマップに表示される店舗情報を管理できる無料ツール。
5. 予約の決め手はありますか?:信頼性と付加価値の提供
お客様が最終的に「この旅館にしよう」と決めるには、信頼できる情報と、他にはない魅力が決め手となります。
- お客様の声・口コミの掲載:
- ポジティブな口コミの紹介: 実際に宿泊したお客様からの良い口コミ(写真付きだとより効果的)をサイトに掲載することで、新規のお客様に安心感を与え、予約への後押しとなります。
- 返信の重要性: 口コミサイト(じゃらん、楽天トラベル、Google口コミなど)への返信を丁寧に行い、お客様への感謝の気持ちや、いただいたご意見を改善に活かす姿勢を示しましょう。
- 受賞歴・認定の表示:
過去に受賞した賞や、公的な認定(例:ミシュランガイド掲載、温泉ソムリエ認定など)があれば、積極的にサイトに掲載し、信頼性を高めましょう。 - 独自の宿泊プラン・特典:
- 公式サイト限定プラン: 大手予約サイトでは提供していない、自社サイト限定の特別な宿泊プランや特典(例:レイトチェックアウト、ウェルカムドリンク、お土産特典、貸切風呂無料など)を用意することで、自社サイトでの予約を促します。
- 体験型プランの充実: 旅館周辺の自然体験、文化体験、工芸体験など、お客様が滞在中に楽しめる独自の体験プランを提供し、旅館の魅力を高めましょう。
- リピーター特典: 以前宿泊したお客様向けに、特別な割引やサービスを提供するリピーター制度を設けることで、再訪を促し、顧客ロイヤルティ(※20)を高めます。
- ※20 顧客ロイヤルティ: 顧客が特定のブランドや企業に対し、愛着や信頼を持ち、継続的に利用する意識や行動。
- 安全・安心への取り組み:
- 衛生管理の徹底: 旅館が実施している衛生管理や感染症対策について、具体的に明示することで、お客様に安心して宿泊してもらえることを伝えます。
- 防災対策: 災害時の避難経路や対策について分かりやすく説明し、お客様の安全への配慮をアピールします。
まとめ:自社サイトは「旅館の顔」
自社サイトは、単なる予約を受け付けるツールではありません。
それは、貴社の「旅館の顔」であり、お客様に最初に触れる「おもてなし」の場です。
今回ご紹介した5つのチェックリストを参考に、写真や動画の質、予約までのスムーズさ、情報の網羅性、集客施策、そして信頼性と付加価値の提供という観点から、貴社のサイトを見直してみてください。
これらの改善は、地道な作業に思えるかもしれませんが、一つ一つ丁寧に取り組むことで、必ず自社サイトからの予約率向上に繋がります。
そしてそれは、貴社の利益率改善だけでなく、お客様とのより深い関係性を築き、貴社独自のブランド価値を高めることにも繋がるでしょう。
お客様に「この旅館に泊まりたい」と心から思っていただけるような、魅力的な自社サイトを一緒に作っていきましょう。