
競争が激化する宿泊業界において、大手ホテルチェーンやオンライン旅行サイト(OTA)との価格競争に巻き込まれず、自社の魅力でしっかりと集客するためには「地域密着型のプロモーション戦略」が鍵となります。
単なる広告や値引きキャンペーンに頼るのではなく、地域に根ざし、地域と共に価値をつくることで、長期的で安定した集客が可能になります。
本コラムでは、ホテル・旅館業のコンサルタントとして、地域密着型プロモーションの考え方と、今日から実践できる具体策をご紹介します。
1. なぜ今「地域密着型」なのか?
かつては「良い立地」「快適な施設」「安い価格」が宿選びの決め手でした。
しかし現在は、それらがある程度整備されている中で、
「地域ならではの体験」
「人とのつながり」
「その土地でしか得られない価値」
が、宿泊者にとっての決定打になっています。
たとえば、単なるビジネスホテルが
「地元の農家と提携して朝食に地産地消メニューを提供している」
と聞けば、それだけで興味を持たれる時代です。
都市部から地方へと価値が移っているいまこそ、「地域の資源を活かす宿」が選ばれる時代になっているのです。
2. 地域密着型プロモーションの基本的な考え方

地域密着型プロモーションとは、地域の資源(人・モノ・文化・自然など)を宿の魅力と結びつけ、地域との関係性を宿泊者に伝える広報・集客活動のことです。
ポイントは「地域と一体化すること」であり、地域の魅力を”借りる”のではなく、”共に発信する”ことが重要です。
以下の3つの視点を軸に、地域密着型プロモーションの基本戦略を設計していきましょう。
① 地域と「つながる」:連携と協働
② 地域を「語る」:ストーリーテリング
③ 地域を「届ける」:発信チャネルの最適化
3. 実践的なプロモーション施策【7選】
まずは地元について深掘りしていきましょう。
「自慢したいもの」「好きなもの」を書き出す: 以下のテーマで、思いつくものを自由に書き出していきましょう。
- 食: 美味しい定食屋、こだわりのパン屋、地元の人が通う居酒屋、旬の果物や野菜、地酒、珍しい郷土料理など。
- 人: 面白い話をしてくれる農家のおじいちゃん、伝統工芸の職人、気さくな商店街の店主、地域の歴史に詳しい郷土史家など。
- 場所: ガイドブックには載っていない絶景スポット、静かに過ごせる小道、歴史を感じる古い建物、面白い看板、朝日や夕日がきれいに見える場所など。
- 文化・体験: 朝市、お祭り、伝統行事、坐禅体験ができるお寺、漁業体験、収穫体験など。
1)地元事業者とのコラボプランを作る
地元の飲食店、農家、酒造、伝統工芸などとコラボし、宿泊プランを共同で企画します。
たとえば「○○酒造との地酒体験付きプラン」や「地元野菜の収穫体験+宿泊パック」などが好例です。
宿の魅力が地域の魅力で補強され、相乗効果を生みます。
2)宿泊者に地域の「裏観光」情報を提供
観光地の定番情報はどの宿でも扱っていますが、地元住民しか知らない穴場スポットや小さなお祭りなどを案内すると、宿の独自性が際立ちます。
館内にスタッフ手作りの「ローカルマップ」を掲示したり、SNSで「今日の地元情報」を配信したりするのも有効です。
3)地域イベントと連動した宿泊キャンペーン
地元のイベントや祭りの開催日程に合わせて、特別宿泊プランを企画しましょう。
「花火大会の日に合わせた特等席確約プラン」「地元盆踊りと夕食体験付きプラン」など、イベントと宿泊を結びつけることで、付加価値が生まれます。
4)地域の「人」を打ち出すストーリー戦略

宿の紹介だけではなく、地元の人との関わりを通じた物語を発信しましょう。
たとえば「朝食に使っている野菜は、毎朝、○○さんの畑から届きます」など、”顔が見える関係性”をコンテンツにすることで、温かみや安心感が宿に生まれます。
これを「ストーリーテリング(物語を通じた伝え方)」と言います。
5)地域SNSインフルエンサーとの連携
地域で活動するYouTuber、Instagrammer、観光ブロガーなどに宿を紹介してもらう方法です。
全国的な知名度がなくても、地元密着型の情報発信者には根強いファンがついており、情報の信頼性が高いのが特徴です。
6)地域の教育機関や自治体と連携
地域の高校や専門学校と提携し、「観光実習」や「地域調査」などの一環で宿を活用してもらうのも有効です。
また、地域振興を推進する自治体の観光課や商工会議所と連携すれば、補助金・助成金の対象になる可能性もあります。
7)直販サイトで地域色を強調
OTA(オンライン旅行代理店)だけでなく、自社のホームページでも予約を受けることが重要です。
直販サイトでは「地域のこだわり」や「宿の想い」が自由に表現でき、価格競争に巻き込まれにくくなります。
予約ページに「地域とのつながり」「スタッフの想い」「地元のお客様の声」などを盛り込みましょう。
その他の情報発信
- SNS(Instagram, Facebook, Xなど):
- Instagram: 体験の様子が伝わる美しい写真やショート動画(リール)を投稿。「#地域名+体験」「#農家民泊」など、ターゲットが見つけやすいハッシュタグを活用します。
- Facebook: 少し長めの文章で、体験に込めた想いや地域の魅力をじっくりと語りかけます。地域のイベント情報などもシェアし、地域全体の情報発信拠点としての役割も担いましょう。
- X(旧Twitter): リアルタイム性の高い情報を発信。「今、〇〇さんがトマトの収穫をしています!美味しそう!」「今日の夕日は格別です」など、ライブ感のある投稿が効果的です。
- プレスリリース:
- ユニークな体験プランが完成したら、地元の新聞社やテレビ局、ウェブメディア向けにプレスリリース(報道機関向けの発表資料)を配信しましょう。「〇〇旅館、地元の猟師と連携し、ジビエ解体体験プランを開始」といったキャッチーなタイトルで、社会性や新規性をアピールできれば、無料で取材・掲載してもらえる可能性があります。
- ニュースレター(メルマガ):
- 一度宿泊してくれたお客様や、問い合わせをくれた見込み客のリストは、貴重な財産です。月に1〜2回、地域の季節の便りや、新しいプランの先行案内などを送り、関係性を維持しましょう。「〇〇様、昨年いらっしゃった頃、桜が綺麗でしたね。今年の開花は…」といったパーソナルな一文を添えるだけで、お客様の心に響きます。
大切なのは、広告宣伝費をかけることよりも、手間と愛情をかけて、地域の魅力を丁寧に伝え続けることです。その熱量は、必ずお客様に届きます。
4. 地域密着型プロモーションの注意点

成功するためには、以下のポイントに注意する必要があります。
- 地域の人との信頼関係づくり:
一方的な利用ではなく、共創(=ともにつくる)の姿勢が大切です。 - Win-Winの関係を築く:
「私たちの宿のお客様に、ぜひあなたの素晴らしい活動を知ってほしいのです」と伝え、相手にとってのメリットを明確に提示します。 - 情報の発信力:
せっかく良い企画でも、それを伝える努力を怠っては効果が出ません。SNS、ブログ、口コミを最大限活用しましょう。 - 独自性を意識する:
他の宿と同じような「地産地消」では埋もれてしまいます。「この宿ならではの体験」は何かを常に問い続けましょう。
最初は断られることもあるかもしれません。
しかし、諦めずに地域のイベントに顔を出したり、商品を買い続けたりするうちに、あなたの本気度が伝わり、必ず道は開けます。
一社、また一社と仲間が増えていくことで、プロモーションの幅は飛躍的に広がります。
5. まとめ:地域を活かすことは、自分たちを活かすこと
地域密着型のプロモーションは、単なるマーケティング手法ではなく、「宿泊業が地域の一員として、どのように共に成長していくか」という考え方に基づくものです。
地域に根を張ることが、結果として「ファンに選ばれる宿」を育てます。
全国どこにでもあるような宿ではなく、「この町、この宿だから泊まりたい」と言ってもらえる旅館・ホテルへ。
小さな地域資源に光を当て、大きな魅力へと育てる。その一歩が、地域密着型プロモーションから始まります。
まずは小さな一歩からでも構いません。地元の人と話すこと、地元の食材を取り入れること、地域の歴史を学ぶこと。それらがすべて、魅力ある宿づくりの第一歩です。
ぜひ、地域と共に歩む集客の道を進んでみてください。あなたの宿の価値は、地域と共に育ちます。