
「売上は過去最高なのに、なぜか手元にお金が残らない…」
全国の旅館経営者の皆様、このような悩みを抱えていませんか?
「満室の日が続いて、売上は前年を超えた。それなのに、月末に従業員の給料や仕入れ代金を支払うと、手元にはほとんど残らない…」
「OTA(※1)のセールで予約は殺到したが、気づけば手数料を引かれて利益は雀の涙。忙しかっただけで、全く儲かった気がしない…」
売上という数字の魔力に取り憑かれ、ひたすらその拡大を追い求めた結果、かえって経営が苦しくなってしまう。
この「売上至上主義の罠」に、多くのホテル・旅館の経営者が陥ってしまっています。
経営で本当に大切なのは「売上」の大きさではありません。
最終的に、経営者の手元にどれだけのお金=「利益」を残せるかです。
ここでは、難しい会計知識は一旦脇に置き、「ドンブリ勘定」から脱却して、利益をしっかりと確保できる「儲かる旅館」へと体質改善するための、具体的な数字管理術をお伝えします。
この記事を読み終える頃には、見るべき数字が明確になり、明日から打つべき一手が見えてくるはずです。
(※1)OTA(Online Travel Agent):楽天トラベルやじゃらんnetなど、インターネット上の旅行会社。多くの旅館が主要な販売チャネルとして利用しているが、売上に対して一定の手数料が発生する。
第1章:なぜ「売上」だけを追いかけると危険なのか?~その忙しさ、利益につながっていますか?~
多くの場合、「売上を増やす」ための施策は、利益を圧迫する副作用を伴います。
具体的に見ていきましょう。
ケース1:安易な「値下げ」が利益を吹き飛ばす
例えば、1泊2食20,000円のプランを、集客のために10%OFFの18,000円に値下げしたとします。
このプランの変動費(※2)(食材費、リネン代、水道光熱費、消耗品費など、お客様が1人増えるごとに増える費用)が8,000円だと仮定しましょう。
- 定価の場合の粗利益: 20,000円(売上) - 8,000円(変動費) = 12,000円
- 値下げ後の粗利益: 18,000円(売上) - 8,000円(変動費) = 10,000円
たった2,000円の値下げですが、1組あたりの粗利益は16.7%も減少してしまいました。
もし、値下げ前と同じだけの粗利益(12,000円)を稼ごうと思ったら、どうなるでしょうか。
12,000円 ÷ 10,000円 = 1.2
つまり、1.2倍のお客様を受け入れなければなりません。
10組のお客様で得られていた利益を、12組のお客様を受け入れて、ようやく稼げる計算です。
現場の負担は1.2倍になるのに、利益の総額は同じ。これが「忙しい割に儲からない」の正体の一つです。
(※2)変動費:売上の増減に比例して変動する費用のこと。逆に、売上に関わらず一定額が発生する費用を固定費(家賃、正社員人件費、減価償却費など)と呼びます。この区別が利益管理の第一歩です。
ケース2:見えないコスト「OTA手数料」の罠
次に、OTAの手数料について考えてみましょう。
仮に、手数料12%のOTA経由で、先ほどの20,000円のプランが売れたとします。
- OTA経由の場合:
- 売上:20,000円
- OTA手数料:20,000円 × 12% = 2,400円
- 手数料を引いた後の売上:17,600円
- 粗利益:17,600円 - 8,000円(変動費) = 9,600円
もし、このお客様が旅館の公式ウェブサイトから直接予約(直販)してくれていたら、どうでしょう。
- 直販の場合:
- 売上:20,000円
- OTA手数料:0円
- 粗利益:20,000円 - 8,000円(変動費) = 12,000円
その差は、実に 2,400円。同じお客様が、同じサービスを受けて、同じ金額を支払っているにもかかわらず、予約の入り口が違うだけで、旅館に残る利益はこれだけ変わるのです。
売上だけを見ていると、この「見えないコスト」の存在に気づくことができません。
もちろん、OTAや既存の旅行会社からの集客をすぐにやめましょうといっている訳ではありません。
集客に頼るのは楽ですし、ある意味業務の効率化にもなります。
ここでは売上だけを見ることの危険性について知って頂ければと思います。
ケース3:顧客満足度を犠牲にする「稼働率100%」の魔力
「稼働率100%」――この言葉は、旅館経営者にとって甘美な響きを持つかもしれません。
しかし、稼働率の最大化が目的化してしまうと、長期的な利益を損なう深刻な事態を招きます。
ある海辺の旅館の例です。
その旅館は、オフシーズン対策として、稼働率を上げるために格安の団体ツアーを積極的に受け入れ始めました。
結果として、年間の平均稼働率は85%を超え、売上も過去最高を記録しました。経営者は一見、成功したかのように見えました。
しかし、その裏では、静かに問題が進行していました。
- 現場の疲弊とサービス品質の低下:
常に満室状態で、スタッフは休憩もままならないほど忙殺されました。
結果、客室の清掃に手が回らず、お客様から「髪の毛が落ちていた」といったクレームが入るように。
食事の提供も遅れがちになり、スタッフの笑顔も消えました。 - 顧客層の変化とブランドイメージの毀損:
これまでの個人旅行客やリピーターは、「なんだか騒がしくて落ち着かない宿になった」と足が遠のいていきました。
代わりに増えたのは、価格の安さだけを求める客層です。
口コミサイトには「安かろう悪かろう」「スタッフの対応が雑」といった厳しい評価が並ぶようになりました。 - 長期的な収益の悪化:
目先の売上は確保できましたが、悪い評判が広まり、個人客の予約は激減。
単価の高いリピーターを失ったことで、利益率は大きく低下しました。
結局、数年後には格安ツアーに頼らなければ経営が成り立たない、儲からない旅館へと成り下がってしまったのです。
稼働率は重要な指標ですが、それはあくまで「質の高いサービスを提供できるキャパシティの範囲内」での話です。
短期的な売上のために顧客満足度を犠牲にすることは、自ら未来の利益の種を摘み取っていることに他なりません。
ケース4:費用対効果なき「広告宣伝」の泥沼
「もっと売上を伸ばしたい」という一心で、多額の広告宣伝費を投下する旅館も少なくありません。
しかし、その広告が一体いくらの「利益」を生んでいるのかを把握しないまま突き進むと、お金をドブに捨てるような結果になりかねません。
ある高原リゾートの旅館が、有名な旅行雑誌に月50万円の広告を掲載し始めました。
広告掲載後、その月の売上は前年同月比で200万円増加しました。
「さすがは有名雑誌だ!」と経営者は喜びました。
しかし、冷静に利益を計算してみると、驚くべき事実が判明します。
- 増加した売上: 2,000,000円
- 投下した広告費: 500,000円
- この旅館の粗利率(※3): 25% (売上から変動費を引いた利益の割合)
まず、増加した売上200万円がもたらした粗利益を計算します。
2,000,000円(増加売上) × 25%(粗利率) = 500,000円(増加粗利)
この旅館は、50万円の広告費を投下して、ようやく50万円の粗利益を得たことになります。
つまり、利益は0円。
広告代理店を儲けさせただけで、旅館の利益には全く貢献していなかったのです。
もし粗利率が20%だったら、40万円の粗利益しか生まず、10万円の赤字を出していたことになります。
売上だけを見て「広告効果があった」と判断するのは非常に危険です。
「どの広告から何件の予約が入り、その予約はいくらの利益をもたらしたのか?」という費用対効果(ROI:Return On Investment)の視点がなければ、広告宣伝は単なるコストの垂れ流しになってしまいます。
(※3)粗利率:売上高に占める粗利益の割合を示す指標。(粗利益 ÷ 売上高)× 100 で計算される。この率が高いほど、収益性の高いビジネスと言える。
これら4つのケースに共通するのは、「売上」という数字の裏側にある「利益」を見ていないという点です。
売上を増やすための行動が、結果として利益を減らし、現場を疲弊させ、未来の収益機会まで奪ってしまう。
この負のスパイラルから抜け出すために、私たちはまず、経営の羅針盤を「売上」から「利益」へと切り替える必要があるのです。
第2章:利益体質な旅館になるための「3つの重要指標」
「会計は苦手で…」
「決算書なんて見たくもない」
ご安心ください。
難しい会計用語を全て理解する必要はありません。
まずは、経営判断に直結する以下の3つの指標だけを、羅針盤として使いこなせるようになりましょう。
重要指標①:現場の実力を測る「GOP(営業総利益)」
GOP(Gross Operating Profit)とは、旅館の「現場力」で稼いだ、本業の儲けを示す指標です。計算式は非常にシンプルです。
GOP = 売上総額 - (変動費 + 現場の運営費)
ここでの「現場の運営費」とは、人件費や広告宣伝費など、現場のオペレーションに直接かかる費用を指します。
GOPは、借入金の返済や減価償却費(※3)といった、現場の努力ではコントロールしにくい財務的な費用を差し引く前の利益なので、純粋な「現場の稼ぐ力」を測ることができます。
「変動費」:お客様の数に比例して増減する費用
変動費とは、その名の通り「お客様が1人(1組)増えるごとに、それに比例して増えていく費用」のことです。
「もし、今日お客様が一人も来なかったら、この費用は発生しただろうか?」と自問自答すると、分かりやすく分類できます。
旅館・ホテル業における主な変動費は、以下の通りです。
部門 | 具体的な費用項目 | 内容・考え方 |
---|---|---|
客室部門 | リネンサプライ費 | シーツ、タオル、浴衣など、お客様が利用するごとに発生する洗濯・リースの費用です。 |
客室消耗品費(アメニティ代) | 歯ブラシ、シャンプー、石鹸、お茶菓子など、お客様が利用・消費する物品の費用です。 | |
OTA手数料 | OTA経由の予約売上に対して、一定の料率で発生する手数料です。売上に完全に比例します。 | |
客室清掃外部委託費 | 「1室〇〇円」という形で外部業者に清掃を委託している場合、その費用は変動費となります。 | |
料飲(飲食)部門 | 食材費 | お客様に提供する料理の材料費です。変動費の代表格と言えます。 |
飲料費 | お客様に提供する飲み物(アルコール、ソフトドリンク等)の仕入れ費用です。 | |
その他 | クリーニング代 | お客様の依頼に応じて発生するクリーニングの費用です。(自社の制服等は運営費) |
販売手数料 | 売店(物販)で、仕入れ商品を販売した際の販売手数料や、委託販売商品の仕入れ代金などが該当します。 |
これらの変動費をいかにコントロールするか(=変動費率を下げるか)が、利益率改善の直接的な鍵となります。
例えば、食材の仕入れ先を見直す、ロスの少ないメニューを開発する、アメニティを必要な分だけ提供する(アメニティバーなど)といった工夫が、変動費の削減につながります。
「現場の運営費」:現場を動かすために必要な費用
「現場の運営費」とは、お客様の数に直接比例はしないものの、日々の旅館のオペレーション(運営)を維持するために不可欠な費用を指します。
現場の支配人やマネージャーの裁量で、ある程度コントロール可能な費用群と考えると分かりやすいでしょう。
これは、会計上の「販売費及び一般管理費(販管費)」の中から、現場運営に関わるものを抜き出したイメージです。
分類 | 具体的な費用項目 | 内容・考え方 |
---|---|---|
人件費関連 | 給与・賃金・賞与 | フロント、客室係、調理場、レストランなど、現場で働く正社員・契約社員の給与や賞与です。 |
アルバイト・パート人件費 | 繁忙期に増員するスタッフの人件費も、現場の運営費として扱います。(※注1) | |
法定福利費 | 従業員の社会保険料(健康保険、厚生年金など)の会社負担分です。 | |
販売促進関連 | 広告宣伝費 | OTAへの広告出稿、雑誌広告、ウェブ広告、パンフレット制作費など、集客のための費用です。 |
販売促進費 | お客様へのDM送付費用や、旅行代理店への営業活動費用などが含まれます。 | |
施設管理関連 | 水道光熱費 | 電気、ガス、水道、灯油代などです。(※注2) |
修繕費 | 客室の壁紙の補修、備品の修理など、日常的に発生する小規模な修繕の費用です。 | |
消耗品費 | 事務用品、電球、清掃用具など、バックヤードで消費される備品・消耗品の費用です。 | |
その他 | 通信費 | 電話代、インターネット利用料、予約システム利用料(固定額の場合)などです。 |
支払手数料 | クレジットカード決済手数料や、銀行の振込手数料などです。 | |
雑費 | 上記のいずれにも分類されない、現場で発生する少額の経費です。 |
(※注1)アルバイト人件費の扱いについて 厳密に考えると、お客様の数に応じてシフトが増減するアルバイト人件費は変動費に近い性質を持ちます。しかし、多くのホテル会計基準(例:USALI - 米国宿泊業会計基準)では、人件費はまとめて「運営費」として管理するのが一般的です。自社で管理しやすいルールを統一して適用することが重要です。
(※注2)水道光熱費の扱いについて 水道光熱費も、基本料金部分は固定費、使用量に応じた部分は変動費という性質を持ちます。しかし、実務上はこれを厳密に分けるのが難しいため、全額を「現場の運営費」として扱うのが一般的です。
例えば、客室数20室のA旅館とB旅館があったとします。
A旅館 | B旅館 | |
---|---|---|
月間売上 | 1,000万円 | 1,000万円 |
変動費 | 300万円 | 350万円 |
現場運営費 | 400万円 | 450万円 |
GOP | 300万円 | 200万円 |
売上は同じ1,000万円でも、A旅館の方が100万円も多くGOPを稼いでいます。
これは、A旅館の方が食材の仕入れや人員配置、広告の使い方などが効率的で、「稼ぐ力」が強いことを示しています。
あなたの旅館のGOPはいくらでしょうか?
まずは、先月の実績から計算してみてください。
これを毎月追いかけることで、現場の改善努力が正しく利益に結びついているかを確認できます。
(※3)減価償却費:建物や設備など、高額で長期間使用する資産の取得費用を、その使用可能期間にわたって毎年少しずつ費用として計上していく会計上の処理。実際にお金が出ていくわけではないが、税法上の費用となる。
重要指標②:コスト構造を丸裸にする「変動費と固定費」
第1章で少し触れましたが、「変動費」と「固定費」の概念は、利益改善の急所です。
あなたの旅館の経費を、まずはこの2種類に仕分けてみましょう。
- 変動費の例: 食材費、飲料費、リネンサプライ代、客室消耗品費、OTA手数料、アルバイト人件費など
- 固定費の例: 建物・土地の賃料、正社員給与、借入金利息、減価償却費、各種保険料、水道光熱費の基本料金部分など
なぜこの仕分けが重要かというと、利益を増やすためのアプローチが全く異なるからです。
- 変動費に対しては… お客様一人あたりのコストを下げる努力(=変動費率の改善)が求められます。
例えば、「売上に対する食材原価率を30%以内に抑える」という目標を立て、メニュー構成の見直し、仕入れ先の交渉、食品ロスの削減といった具体的なアクションにつなげます。 - 固定費に対しては… これはお客様が0人でも発生する費用なので、一人でも多くのお客様をお迎えして、固定費を回収する必要があります。
固定費をまかなえる売上高(=損益分岐点売上高)を把握することが極めて重要です。
【実践ワーク】
先月の試算表(会計事務所から毎月もらう書類)を見て、全ての経費項目に「変」か「固」の印をつけてみてください。
そして、それぞれの合計額を計算し、売上に対して何パーセントを占めるか(変動費率、固定費率)を把握しましょう。
自館のコスト構造が可視化され、どこにメスを入れるべきかが見えてくるはずです。
重要指標③:客室の収益性を測る「RevPAR」と「TRevPAR」
「今日の稼働率(OCC)は90%だった!」
「平均客室単価(ADR)は25,000円を超えた!」
と一喜一憂していませんか?
実は、この2つを別々に見ているだけでは、客室の本当の収益性は分かりません。
そこで使うのがRevPAR(Revenue Per Available Room)です。
RevPAR = 客室売上 ÷ 販売可能客室総数 (または、ADR × OCC)
これは、「販売可能な全ての客室が、1室あたり平均していくらの客室売上を生み出したか」を示す指標です。
稼働率と単価の両方を掛け合わせた、客室部門の収益性を測る最も重要な指標と言えます。
C旅館 | D旅館 | |
---|---|---|
客室数 | 20室 | 20室 |
ADR(平均単価) | 18,000円 | 22,000円 |
OCC(稼働率) | 90% | 75% |
RevPAR | 16,200円 | 16,500円 |
Google スプレッドシートにエクスポート
稼働率ではC旅館が圧勝していますが、RevPARで見ると、D旅館の方が客室の収益性が高いことが分かります。
むやみに稼働率を追うのではなく、RevPARを最大化するような価格戦略が求められるのです。
さらに、旅館経営では、宿泊以外の売上(飲食、土産、体験など)も非常に重要です。
そこで、TRevPAR(Total Revenue Per Available Room)という指標も意識しましょう。
TRevPAR = 総売上(客室+飲食+その他) ÷ 販売可能客室総数
これは、「販売可能な全ての客室が、1室あたり平均していくらの『総売上』を生み出したか」を示します。
お客様が夕食時に地酒を1本追加で頼んでくれたり、お土産を買ってくれたりすることで、このTRevPARは上昇します。
客室単価を上げるのが難しくても、館内での追加利用を促すことで、旅館全体の収益性を高めることができるのです。
第3章:【実践編】明日からできる!利益を増やすためのアクションプラン
数字をただ眺めているだけでは、何も変わりません。
ここからは、分析した数字を元に、利益を増やすための具体的な行動に移していきましょう。
1. まずは「日次損益」の見える化から始める
決算書は年に1回、試算表は月に1回。
これでは経営判断のスピードが遅すぎます。
利益体質な旅館の経営者は、「今日の儲けはいくらだったか?」を日々把握しています。
難しく考える必要はありません。
エクセルやスプレッドシートで、以下のような簡単な「日次損益管理シート」を作ってみましょう。
【超シンプル!日次損益管理シート】
日付 | 宿泊売上 | 飲食売上 | その他売上 | 売上合計(A) | 食材費 | リネン代 | OTA手数料 | 変動費合計(B) | 粗利益 (A-B) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
6/17 | 360,000 | 80,000 | 20,000 | 460,000 | 108,000 | 18,000 | 28,800 | 154,800 | 305,200 |
6/18 |
これを毎日、担当者が入力するだけで、日々の経営成績が手に取るように分かります。
「今日は粗利益が良かったな。なぜだろう?ああ、直販のお客様が多くて、追加の地酒もよく出たからか」
「今日は利益が少ないな。団体客で売上は大きかったが、変動費もかなりかかっているな」
といった気づきが生まれます。
この日々の気づきの積み重ねが、大きな改善につながるのです。
2. 利益率の高い「直販比率」を本気で高める
第1章で見たように、OTA経由と直販では、手元に残る利益が大きく異なります。
今、あなたの旅館の直販比率(全予約に占める公式HPなどからの直接予約の割合)は何パーセントでしょうか?
これを10%引き上げるだけでも、全体の利益率は劇的に改善します。
- 公式サイトの魅力向上:
OTAのページより遥かに魅力的で、情報が豊富なサイトになっていますか?
「公式サイトが一番お得」と謳うベストレート保証は必須です。 - リピーター施策の徹底:
一度来てくださったお客様に、次回の予約で使える割引クーポンや、会員限定の特典を付けたメルマガを送っていますか? - 地域密着の独自プラン:
前回のコラムでもお伝えしたような、OTAでは販売していない、地域と連携したユニークな体験プランを公式サイト限定で販売しましょう。
OTAはあくまで「新規顧客との出会いの場」と割り切り、一度接点を持ったお客様を、いかに直販チャネルへと誘導していくかが腕の見せ所です。
3. 全従業員で取り組む「アップセル・クロスセル」
TRevPARを高めるために、お客様一人あたりの単価(客単価)を上げる努力は欠かせません。
そのための有効な手段が、「アップセル」と「クロスセル」です。
- アップセル: 予約時よりワンランク上の商品をお勧めすること。
- 例:「追加3,000円で、眺めの良い角部屋へアップグレードできますがいかがですか?」
- クロスセル: 予約した商品に関連する別の商品をお勧めすること。
- 例:「お食事の際に、こちらのコースに合う地酒のペアリングセットはいかがですか?」
- 例:「明日のご予定はお決まりですか?当館オリジナルのE-bike(電動アシスト自転車)で巡る里山サイクリングが人気ですよ」
重要なのは、これを「押し売り」にしないことです。
お客様の状況(記念日、家族構成、会話の内容など)を察し、「お客様の滞在をより素晴らしいものにするための提案」として行うのです。
フロント、仲居、レストランスタッフ全員がこの意識を持つだけで、館内売上は大きく変わります。
小さなインセンティブ(報奨金)制度を導入するのも効果的です。
おわりに:数字は、未来を切り拓く「羅針盤」である
ここまで、利益を残すための数字管理術についてお話ししてきました。
もしかしたら、「面倒くさそうだ」「難しそうだ」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、数字管理は、経営者を縛るためのものでは決してありません。
むしろ、荒波の海を航海する船長にとっての「羅針盤」であり、目的地(=持続可能な経営)へと安全に導いてくれる、最も信頼できるパートナーなのです。
羅針盤がなければ、どこに向かっているのか分からず、ただやみくもに船を漕ぎ、疲弊してしまいます。
しかし、正確な羅針盤があれば、向かうべき方角が分かり、乗組員(従業員)にも的確な指示を出すことができます。
まずは、本コラムで紹介した「日次損益の見える化」から始めてみてください。
毎日、自館の儲けと向き合う。その小さな習慣が、あなたの経営者としての視座を確実に引き上げます。
売上という幻影を追うのではなく、利益という現実を見据える。
その先にこそ、従業員の生活を守り、お客様へより良いサービスを提供し、そして何より、経営者であるあなた自身が心から安心して旅館を経営できる、明るい未来が待っています。
実際に取り組む際に難しさを感じられる場合は、お気軽に弊社へお問い合わせください。