利益を最大化する宿泊プラン設計の極意とは?

「うちの宿は、良い部屋と温泉があるのに、なぜか利益が伸び悩んでいる…」
「宿泊プランは色々作っているつもりだが、どれも似たり寄ったりで、お客様に響いている気がしない…」

ホテル・旅館を経営されている皆様、このようなお悩みをお持ちではありませんか?
施設の魅力をお客様に伝え、しっかりと利益を上げていくためには、戦略的な「宿泊プラン設計」が不可欠です。
宿泊プランは、単なる「部屋と食事の組み合わせ」ではありません。
それは、お客様への最初のプレゼンテーションであり、施設の価値を伝え、最終的に利益を最大化するための強力なマーケティングツールなのです。

本記事では、数多くのホテル・旅館のコンサルティングを手掛けてきた経験から、利益を最大化するための宿泊プラン設計の「極意」を、明日からすぐに実践できる具体的なステップと共にご紹介します。
小手先のテクニックではなく、経営の根幹に関わる本質的な考え方をお伝えしますので、ぜひ最後までお付き合いください。

第1章:すべての基本は「誰に、何を、売るか」の再定義から

魅力的な宿泊プランを作る最初のステップは、パソコンの前で新しいプラン名を考えることではありません。まずは自館を深く理解し、どのようなお客様に価値を提供できるのかを徹底的に分析することから始まります。

1-1. 自館の「本当の強み」と「現状」を直視する

まずは、自館の現状を客観的に分析しましょう。SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威を分析するフレームワーク)などを活用するのも良いでしょう。

強み (Strengths)

絶景の露天風呂、地元食材を活かした創作料理、歴史ある建物、きめ細やかな接客など、競合に負けない点は何ですか?

弱み (Weaknesses)

駅から遠い、建物の古さが目立つ、IT対応が遅れている,、従業員教育など、目を背けずに課題を洗い出しましょう。

機会 (Opportunities)

近隣に新しい観光施設ができた、インバウンド需要の増加、特定の趣味を持つ層からの注目など、外部環境の変化をチャンスと捉えます。

脅威 (Threats)

周辺に新しい競合ホテルが開業した、又は廃業ホテルが目立つようになった、自然災害のリスク、景気の変動など、経営上のリスクを把握します。

この分析を通じて、「私たちの宿は、都会の喧騒を離れて静かに過ごしたいカップルにとって、最高のロケーションと食事を提供できる」といった、自館ならではの提供価値(バリュープロポジション)が明確になります。

12. 理想のお客様像(ペルソナ)を具体的に描く

次に、「誰に」売りたいのかを具体的にします。
ここで有効なのが「ペルソナ設定」です。
ペルソナとは、自館にとって理想的な顧客像を、まるで実在する人物のように詳細に設定するマーケティング手法です。

<ペルソナ設定の例>

  • 氏名: 鈴木 美咲(すずき みさき)仮名
  • 年齢: 32歳
  • 職業: 都内在住のIT企業勤務(マーケティング職)
  • 家族構成: 同い年の夫と二人暮らし
  • ライフスタイル:
    • 夫婦ともに多忙で、休日はゆっくりとリフレッシュしたい。
    • 美味しいものを食べること、質の高いサービスを受けることに価値を感じる。
    • 旅行の情報収集は、Instagramや旅行系ウェブメディアが中心。
    • 宿泊先を決める際は、口コミと写真の雰囲気を重視する。
  • 旅行の目的: 結婚記念日のお祝い。非日常的な空間で、二人だけの特別な時間を過ごしたい。

このようにペルソナを具体的に描くことで、「鈴木様夫妻なら、どんなプランを喜んでくれるだろうか?」という視点で、プランの内容、ネーミング、写真、文章を考えられるようになります。

ターゲットが明確になることで、プランの訴求力が格段に向上するのです。

第2章:利益率を高めるプラン設計の具体的なテクニック

自館の立ち位置とターゲットが明確になったら、いよいよ具体的なプラン設計に入ります。ここでは、利益を最大化するための3つの重要な考え方をご紹介します。

2-1. 価格設定

宿泊プランの価格設定は、最も経営に直結する重要な要素です。
多くの施設では「周辺の施設がこのくらいの価格だから」と横並びで決めてしまいがちですが、それでは利益の最大化は望めません。

  • レベニューマネジメントの基本を理解する レベニューマネジメントとは、需要と供給に応じて価格を変動させ、収益を最大化する手法です。難しく考える必要はありません。例えば、週末や祝前日、夏休みなどの需要が高い日(ハイデマンド日)は価格を上げ、平日のような需要が低い日(ローデマンド日)は価格を下げて稼働を促す、という基本的な考え方です。 これをさらに進化させ、近隣でのイベント開催、季節、天候、過去の予約データなど、あらゆる情報を基に、1日単位、時には時間単位で価格を最適化していくことが理想です。
  • 「松・竹・梅」の法則で単価アップを狙う 価格帯の異なる3つの選択肢を提示すると、多くの人は中間の「竹」を選ぶという心理効果があります。これを宿泊プランに応用しましょう。
    • 梅(ベーシックプラン): 最もシンプルな素泊まりや朝食付きプラン。価格の安さを重視するお客様向け。
    • 竹(スタンダードプラン): 「梅」に夕食や特典を付けた、最も売りたいプラン。コストパフォーマンスの高さをアピールします。(例:【当館人気No.1】A5ランク牛ステーキ付き基本会席プラン)
    • 松(アップグレードプラン): 露天風呂付き客室確約、特別会席、シャンパンのハーフボトル付きなど、特別な体験を提供する高価格帯プラン。このプランがあることで、「竹」のプランがお得に見える効果もあります。

この価格設定により、お客様は自分の予算やニーズに合わせて選びやすくなり、結果として全体の客単価(ADR: Average Daily Rate)を引き上げることに繋がります。

2-2. 付加価値で差別化する

お客様は、ただ部屋に泊まりたいわけではありません。
その場所でしか得られない「体験(コト)」を求めています。
宿泊プランに、この「体験価値」を組み込むことで、競合との価格競争から抜け出すことができます。

  • アップセル・クロスセルを意識したプラン作り
    • アップセル: お客様が予約しようとしているプランよりも、さらに上位の高単価なプランを提案すること。(例:「スタンダードツイン」を検討中のお客様に、「+3,000円で高層階のデラックスツインへアップグレード」というプランを提示する)
    • クロスセル: 宿泊に加えて、別のサービスや商品を組み合わせて提案すること。(例:エステ、貸切風呂、記念日ケーキ、地元のアクティビティ体験など)
    これらの要素をあらかじめプランに組み込んでおくことで、お客様は予約段階で追加の魅力を感じ、自然な形で客単価が向上します。例えば、「癒しのエステ60分付きレディースプラン」や「ガイドと巡る早朝トレッキング体験付きプラン」などが考えられます。
  • ターゲットに響く「限定プラン」を企画する ペルソナ設定が活きてくるのが、この限定プランです。
    • 記念日プラン: ケーキ、花束、記念写真撮影などをセットに。
    • 一人旅応援プラン: 少し広めの部屋をリーズナブルに提供、夕食はカウンター席で気兼ねなく楽しめるなど。
    • ワーケーションプラン: 長期滞在割引、高速Wi-Fi完備、ワークスペース利用無料などの特典を付ける。

これらのプランは、特定のニーズを持つお客様に強く響き、「この宿に泊まりたい」という強い動機形成に繋がります。

2-3. 販売チャネルの特性を理解し、最適化する

作成したプランを、どこで、どのように販売するかも非常に重要です。
各販売チャネルの特性を理解し、戦略的に使い分けましょう。

  • 公式サイトの価値を最大化する 公式サイトからの予約は、OTA(Online Travel Agent、楽天トラベルやじゃらんなどのオンライン予約サイト)に支払う手数料がかからないため、最も利益率が高い販売チャネルです。公式サイトの予約を増やすために、「公式サイト限定プラン」や「ベストレート保証(公式サイトが最安値であることを約束すること)」は必須の戦略です。 限定プランとしては、「通常プランよりチェックアウト1時間延長無料」や「ウェルカムドリンク一杯サービス」など、コストをかけずに提供できる特典が有効です。
  • OTAは「広告塔」と割り切る OTAは集客力が非常に高い反面、高い販売手数料がかかります。したがって、OTAは「新規顧客に自館を知ってもらうための広告塔」と位置づけ、全てのプランを掲載する必要はありません。 例えば、OTAには集客力の高いベーシックなプランや、OTAのセール企画に合わせたプランを中心に掲載し、利益率の高い付加価値プランやリピーター向けの特典付きプランは公式サイトへ誘導する、といった戦略が考えられます。

第3章:プランの魅力を120%伝え、予約に繋げる情報発信術

どんなに素晴らしいプランを作っても、その魅力がお客様に伝わらなければ意味がありません。
プランの価値を最大限に引き出し、予約という最終ゴールに結びつけるための「伝え方」の極意です。

3-1. 一瞬で心をつかむ「ネーミング」と「キャッチコピー」

お客様が予約サイトで目にする無数のプランの中から、自館のプランに目を留めてもらうためには、最初の数秒が勝負です。

  • 悪い例: スタンダードプラン
  • 良い例: 【人気No.1】料理長特製!A5ランク黒毛和牛と旬の地魚を味わう季節の会席プラン

良い例では、
「誰に(人気No.1で安心感を求める人)」
「何を(A5ランク牛と地魚)」
「どのように(料理長特製、季節の会席)」
楽しめるのかが具体的に伝わります。
ベネフィット(お客様が得られる価値)と具体性を盛り込むことが重要です。

3-2. 「泊まりたい!」を喚起する写真と説明文

写真は、プランの魅力を伝える最も強力なツールです。
薄暗い料理の写真や、生活感のある客室の写真では、お客様の心は動きません。
プロのカメラマンに依頼することも含め、料理、客室、お風呂、そしてお客様が楽しんでいるシーンなど、魅力的でシズル感のある写真を用意しましょう。

説明文では、単なるスペックの羅列に終始してはいけません。

  • 悪い例: 夕食は和会席です。温泉は源泉かけ流しです。
  • 良い例: ご夕食には、地元で今朝獲れたばかりの新鮮な海の幸を、料理長が腕によりをかけて一品一品丁寧に仕上げた創作和会席をご用意。窓の外に広がる満天の星を眺めながら、当館自慢のとろりとした肌触りの源泉かけ流し温泉で、日頃の疲れを芯から癒してください。

このように、お客様がそのプランを予約したら「どのような素晴らしい体験ができるのか」を五感に訴えかけるように描写することで、予約への期待感は一気に高まります。

結論:宿泊プラン設計は、終わりなき「改善」の旅

利益を最大化する宿泊プラン設計は、一度作ったら終わり、というものではありません。
市場の動向、顧客のニーズ、競合の動きは常に変化しています。

大切なのは、プラン販売後に必ず「効果測定」を行うことです。
どのプランが、どの時期に、どのチャネルで、どのようなお客様に予約されたのか。
予約データを分析し、お客様アンケートに耳を傾け、良かった点、悪かった点を洗い出す。
そして、その結果を基に、次のプランを改善していく。
このPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を愚直に回し続けることこそが、持続的に利益を生み出す旅館経営の王道なのです。

この記事でご紹介した考え方が、皆様のホテル・旅館の魅力をさらに引き出し、お客様に喜びを提供しながら、経営をより豊かにしていくための一助となれば幸いです。
まずは、自館の現状分析と、たった一人の理想のお客様(ペルソナ)を考えることから始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、利益最大化への大きな飛躍に繋がるはずです。

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