
宿泊業の経営コンサルタントとして、旅館やホテルを巡り、その経営課題と向き合っています。
近年、多くの施設様から共通して聞かれるお悩みの一つが、「OTA(Online Travel Agent、オンライン旅行代理店)への依存度が高すぎる」というものです。
楽天トラベルやじゃらんnet、Booking.com、ExpediaといったOTAは、確かに集客の強力なツールです。
しかし、その一方で手数料負担は経営を圧迫し、価格競争の激化にも繋がります。
手数料を支払いながら、自社のブランド力を高めにくいというジレンマも抱えています。
では、どうすればOTAへの依存度を下げ、自社の利益率を高めることができるのでしょうか。
その答えは、「直販比率の向上」に他なりません。
お客様が直接、旅館やホテルの公式サイトや電話から予約してくれる割合を増やすこと。
これこそが、持続可能な経営を実現するための鍵となります。
「でも、どうやって直販を増やせばいいのか…」そう思われる方もいらっしゃるでしょう。
大丈夫です。決して魔法のような秘策があるわけではありません。
しかし、着実に実践すれば結果に繋がる、具体的な方法がいくつもあります。
本日は、その方法を皆様に分かりやすく、具体的にご紹介したいと思います。
はじめに. OTA依存のリスクとは?

まずはなぜOTAに頼りすぎてはいけないのか、代表的なデメリットを見ていきましょう。
OTAは、1予約あたり10~15%、場合によっては20%以上の手数料を取る場合もあります。
仮に1泊1万円の予約に対して15%の手数料がかかると、1,500円の利益が削られることになります。
これが月に100件、年間1,200件あると、180万円以上の損失になるのです。
OTAでは多くの宿泊施設が並列に表示されるため、「価格」で比較されやすくなります。
最低価格保証(パリティ条項)により、自社サイトで安く売ることも制限されることがあり、価格での差別化が難しくなります。(現在は少なくなってきています)
OTA経由の予約では、顧客の詳細な情報が宿泊施設側に提供されないことが多く、リピーター施策やマーケティングが難しくなるという課題があります。
もちろん、100%の直販は今の時代難しく、またリスクもあります。
ただし、これらの要因をできる限り排除するよう、一定程度の直販化を進めることはこれからの時代、かなり有効になってきます。
そのためには以下を実践していくことが必要になります。
1. 「選ばれる理由」を明確にする

お客様が数ある宿泊施設の中から、なぜあなたの旅館・ホテルを選ぶのか。
その「選ばれる理由」を明確に言語化し、お客様に伝えることが、直販を増やす第一歩です。
強みの再発見と磨き上げ
あなたの施設には、他にはない魅力が必ずあります。
温泉の泉質、料理のこだわり、絶景、歴史的建造物、スタッフの温かいおもてなし、特別な体験プログラムなど、何でも構いません。
それらを「当たり前」と思わず、改めて掘り下げてみてください。
そして、その強みがお客様にどのような「価値」を提供できるのか、具体的に表現しましょう。
例:「自家源泉掛け流し」だけでなく、「とろりとした湯触りが特徴の美肌の湯で、日頃の疲れを癒し、翌朝には肌の違いを実感できます」
例:「地元の食材を使った料理」だけでなく、「朝採れの新鮮な魚介と契約農家直送の有機野菜を使用し、ここでしか味わえない旬の会席料理を提供します」
ターゲット顧客の明確化
誰に泊まってほしいのかを具体的にイメージすることも重要です。
カップル、ファミリー、ビジネスパーソン、インバウンド(海外からの旅行者)、女性グループ、一人旅など、ターゲットによって訴求すべきポイントは異なります。
ターゲットに響くメッセージを発信することで、より効果的に直販に繋げることができます。
ストーリーテリング
単なる設備やサービスの説明だけでなく、その背景にある「ストーリー」を語ることで、お客様の心に響きやすくなります。
創業者の想い、地域との繋がり、食材へのこだわり、スタッフの熱意など、お客様が共感できるストーリーを発信しましょう。
2. 公式サイトを「最高の営業マン」にする
お客様が宿泊施設を探す際、多くの方がまず利用するのはOTAですが、興味を持った施設の詳細は公式サイトで確認する傾向にあります。
公式サイトは、いわばあなたの旅館・ホテルの「顔」であり、お客様に直接予約してもらうための最も重要なツールです。
魅力的で使いやすいデザイン
スマートフォンでの閲覧が当たり前の時代です。
レスポンシブデザイン(どのデバイスから見ても最適な表示になるデザイン)は必須です。
美しい写真や動画を多用し、施設の魅力を視覚的に訴えかけましょう。
予約への導線は分かりやすく、ストレスなく予約まで進めるように工夫してください。
OTAにはない「お得感」や「特別感」を演出
ベストレート保証:
「公式サイトが一番お得」であることを明確に打ち出しましょう。
「他サイトよりも高い場合は差額を返金します」といったベストレート保証は、お客様に安心感を与え、直販を促す強力な要素です。
公式サイト限定プラン:
OTAでは販売しない、公式サイトだけの限定プランや特典を用意しましょう。
ウェルカムドリンク、レイトチェックアウト、貸切風呂無料サービス、館内利用券など、お客様にとって魅力的な付加価値を提供します。
連泊割引や早期予約割引:
直販ならではの柔軟な価格設定で、お客様の予約を促します。
充実したコンテンツ
ブログやニュース:
地域のイベント情報、季節ごとの料理の紹介、周辺観光スポット、スタッフの日常など、定期的に更新することで、お客様の関心を惹きつけ、再訪問を促します。
SEO(検索エンジン最適化)対策としても有効です。
よくある質問(FAQ): お客様が抱きやすい疑問点を網羅し、事前に解消することで、予約へのハードルを下げます。
お客様の声/口コミ: 実際に宿泊されたお客様のリアルな声は、新規顧客にとって非常に参考になります。良い口コミを積極的に掲載しましょう。
分かりやすい予約システム: スムーズに予約が完了するシステムは必須です。
操作が複雑だったり、エラーが多かったりすると、お客様は途中で離脱してしまいます。
カレンダーでの空室状況表示、料金の自動計算、クレジットカード決済など、基本的な機能は網羅しましょう。
3. ソーシャルメディアを「広報部」にする

Facebook、Instagram、X(旧Twitter)、LINEなど、ソーシャルメディアは今やお客様との重要な接点です。
これらのプラットフォームを効果的に活用することで、施設の魅力を発信し、お客様との関係性を深め、直販への誘導に繋げることができます。
ビジュアルコンテンツの充実
特にInstagramは、美しい写真や動画が重要です。料理、客室、温泉、庭園、周辺の景色など、お客様が「泊まってみたい」と思うような魅力的で質の高いビジュアルを発信しましょう。
リール動画やストーリーズなども積極的に活用し、施設のリアルな雰囲気を伝えます。
ライブ感のある情報発信
季節の移ろい、イベント情報、スタッフの日常、お客様との交流など、タイムリーな情報発信を心がけましょう。一方的な情報提供だけでなく、お客様からのコメントやメッセージに丁寧に返信するなど、双方向のコミュニケーションを意識することが重要です。
ハッシュタグの活用
関連性の高いハッシュタグを複数つけることで、より多くのお客様に情報が届きやすくなります。
地域の名前、施設のタイプ(#温泉旅館 #ホテル)、提供する体験(#美食旅 #絶景露天風呂)など、様々なハッシュタグを試しましょう。
UGC(User Generated Content、ユーザー生成コンテンツ)の活用
お客様がSNSに投稿してくれた写真や動画を、許可を得て公式アカウントで紹介するのも有効です。
お客様は「自分の投稿が紹介された」と喜び、他のフォロワーは「実際に泊まった人の声」として信頼感を持ちます。
キャンペーンやプレゼント企画
SNS限定の割引コードや、宿泊券が当たるキャンペーンなどを実施し、フォロワー数を増やしながら直販を促します。
LINE公式アカウントの活用
LINEは日本で非常に普及しているコミュニケーションツールです。
友だち登録してくれたお客様に、限定クーポンや最新情報、空室情報などを定期的に配信することで、リピート予約や直販を促すことができます。チャット機能でお客様からの質問に直接対応することも可能です。
4. リピーターを「最強の営業マン」にする

新規顧客の獲得には多大なコストがかかりますが、既存顧客のリピート率は非常に高いです。
一度宿泊してくれたお客様は、あなたの旅館・ホテルの魅力をすでに知っており、さらに良い体験を提供することで、再び宿泊してくれる可能性が高まります。
そして、満足度の高いリピーターは、家族や友人への口コミを通じて、新たな顧客を連れてきてくれる「最強の営業マン」になってくれます。
顧客データの活用とパーソナライズ
顧客管理システム(CRM)などを活用し、お客様の宿泊履歴、好み、アレルギー情報などを細かく記録しましょう。これらの情報に基づき、次回の宿泊時にパーソナライズされたおもてなしを提供することで、お客様の満足度は格段に向上します。
例:「前回お気に召していただけた〇〇をご用意いたしました」
例:「お誕生日おめでとうございます。ささやかではございますが、お祝いの品をご用意いたしました」
サンキューメールやDMの送付
宿泊後、感謝の気持ちを伝えるサンキューメールやDMを送付しましょう。
次回の来館に繋がるような割引クーポンや、季節ごとのイベント情報などを添えるのも有効です。
手書きのメッセージは、お客様に温かい気持ちを届け、強い印象を残します。
会員制度の導入
会員登録してくれたお客様に、ポイント付与、会員限定料金、優先予約、特典などを用意することで、囲い込みを図ります。
会員限定のイベントや体験企画なども有効です。
忘れ物対応など、宿泊後のフォローアップ
忘れ物の連絡や郵送など、宿泊後のきめ細やかな対応は、お客様に「大切にされている」という安心感を与え、次回の利用に繋がります。
口コミ投稿の促進
満足してくれたお客様に、公式サイトやGoogleマイビジネス、SNSなどへの口コミ投稿をお願いしましょう。
良い口コミは、新規顧客獲得にも繋がります。
5. 地域との連携を深める

旅館・ホテルは、その地域あってのものです。
地域との連携を深めることは、施設の魅力を高めるだけでなく、新たな集客の機会を生み出し、直販にも繋がりやすくなります。
地域の観光協会や商工会との連携
地域のイベント情報の発信、共同プロモーション、観光客誘致に向けた取り組みなどに積極的に参加しましょう。
地元企業とのコラボレーション
地元の飲食店、体験施設、工芸品店などと連携し、宿泊プランと組み合わせた「体験型プラン」や「地域限定のお土産付きプラン」などを企画しましょう。
お客様は、その地域ならではの特別な体験を求めています。
地域食材の積極的な活用
地域の食材を料理に取り入れることは、お客様にその土地の魅力を伝えるだけでなく、地元の農家や漁師との関係構築にも繋がります。
食材の生産者情報などを明記することで、食への安心感とストーリーを提供できます。
地域貢献活動への参加
地域の清掃活動、祭りへの参加、NPO法人との連携など、地域貢献活動に積極的に参加することで、地域住民からの信頼を得るとともに、施設の社会的な価値を高めることができます。
6. データ分析と改善サイクル

これらの取り組みは、一度行えば終わりではありません。
常に効果を検証し、改善を繰り返していくことが重要です。
ウェブサイトのアクセス解析
Google Analyticsなどのツールを活用し、公式サイトへのアクセス数、滞在時間、参照元、予約完了率などを定期的に分析しましょう。
どこからお客様が来て、どのページをよく見て、どこで離脱しているのかを把握することで、改善点が明確になります。
予約経路の分析
直販とOTA経由の予約比率、各OTAからの予約数、客室タイプ別・プラン別の予約状況などを細かく分析し、効果的な集客施策を検討します。
お客様アンケートやヒアリング
実際に宿泊されたお客様にアンケートを実施したり、直接お話を聞いたりすることで、率直な意見や改善点を把握することができます。
A/Bテストの実施
例えば、公式サイトの特定の箇所の文言や写真を変えて、どちらがより予約に繋がりやすいかをテストするなど、小さな改善を繰り返すことで、全体の効果を高めることができます。
まとめ
「OTAに頼らない!」と言うと、OTAを一切使わないという意味に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。
OTAは有効な集客ツールであり、そのメリットも十分にあります。
しかし、OTAに「依存」するのではなく、自社の力で集客できる「直販」の割合を増やし、OTAを「活用」するという考え方が重要です。
直販比率を上げることは、手数料負担の軽減だけでなく、お客様との直接的な関係構築を通じて、リピーターを増やし、施設のブランド力を高めることに繋がります。
そして、それは結果として、旅館・ホテルの持続可能な経営を実現するための最も確実な道となるでしょう。
本日ご紹介した方法は、決して特別なことばかりではありません。
しかし、どれも地道な努力と継続が求められます。焦らず、一つずつ、できることから着実に実践していくことが重要です。
皆様の旅館・ホテルが、OTAに頼ることなく、自社の魅力でお客様を惹きつけ、繁盛していくことを心から願っています。
何かお困りのことがあれば、いつでもご相談ください。私も皆様と共に考え、より良い未来を築くためのお手伝いをさせていただきます。