
今回のテーマは、ホテル・旅館経営において常に最重要課題の一つである「稼働率アップ」についてです。
少子高齢化、人手不足、そして多岐にわたる競合との競争が激化する中で、ただ待っているだけではお客様は来てくれません。
いかに効果的なマーケティング戦略を打ち出し、お客様に選ばれるホテルとなるかが、事業継続のカギを握っています。
この記事では、最新のマーケティングトレンドを踏まえつつ、実際に稼働率向上に成功している具体的な事例を交えながら、明日からでも実践できるヒントを皆様にお伝えしていきます。
ぜひ最後までお付き合いいただき、貴施設の稼働率アップに繋がるヒントを見つけていただければ幸いです。
稼働率アップの鍵は「顧客理解」と「体験価値」

かつては「良い部屋を提供していればお客様は来てくれる」という時代もありましたが、今は違います。
お客様は単に「寝る場所」を求めているのではなく、「特別な体験」や「目的」を求めてホテルを選んでいます。
つまり、稼働率アップの第一歩は、ターゲット顧客を深く理解し、その顧客が何を求めているのかを把握することにあります。
誰に、どんな体験を提供したいのか?
競合施設との差別化ポイントは何か?
お客様の隠れたニーズは何か?
これらの問いに明確に答えることができれば、自ずと取るべきマーケティング戦略が見えてきます。
最新マーケティング戦略:事例から学ぶ成功の秘訣

では、具体的にどのようなマーケティング戦略が稼働率アップに貢献しているのでしょうか。
成功事例をいくつかご紹介しながら、その秘訣を探っていきましょう。
事例1:ターゲット特化型プランの徹底 – 「推し活」ニーズを取り込むシティホテル
近年、特定の趣味や活動に熱心な層、いわゆる「推し活」をする方々をターゲットにしたプランが注目を集めています。
あるシティホテルでは、この「推し活」に着目しました。
通常、ホテルは多様な顧客層に対応しようとしますが、このホテルはあえて特定のターゲット層に特化し、以下のような戦略を展開しました。
- コンセプトルームの提供:
推しグッズを飾れる広いデスクスペース、鑑賞会ができる大型テレビと音響設備、ライトアップ機能付きの推し壇(推しを飾るための棚)などを設置。 - 限定アメニティ:
推しをイメージしたカラーのバスソルトや、チェキ用のフレームなど、推し活を盛り上げるオリジナルアメニティを提供。 - コラボレーション:
人気のアニメやキャラクター、アイドルグループなどと公式にコラボレーションし、限定宿泊プランやグッズを展開。 - SNSでの情報発信:
推し活に適した部屋の機能やアメニティ、宿泊体験を具体的にイメージできるような写真や動画を積極的に発信。ハッシュタグキャンペーンなども実施。
このホテルは、ターゲットを絞り込むことで、「ここに泊まれば、推し活が最高に楽しめる!」という明確なメッセージを打ち出すことに成功しました。
結果として、特定の顧客層からの圧倒的な支持を得て、週末だけでなく平日も高い稼働率を維持しています。
- ニッチな市場でも深く掘り下げれば大きな需要があること。
- 単なる宿泊施設ではなく、お客様の「目的」を達成するための場所としてホテルを位置づけたこと。
- SNSを最大限に活用し、ターゲット層に直接訴えかけたこと。
事例2:地域連携と体験型コンテンツの創出 – 「着地型観光」で魅力を発信する温泉旅館
地方の温泉旅館では、交通の便や知名度の問題から集客に課題を抱えるケースが少なくありません。
ある温泉旅館では、旅館単体での集客に限界を感じ、地域全体を巻き込んだ「着地型観光」に力を入れました。
「着地型観光」とは、旅行者が現地に到着してから参加するツアーや体験プログラムのことです。
この旅館では、地域の観光協会や地元事業者と連携し、以下のような取り組みを実施しました。
- 伝統工芸体験プラン:
旅館周辺の工房と提携し、陶芸体験や染物体験ができる宿泊プランを造成。旅館から工房までの送迎も手配。 - 旬の味覚を体験する収穫ツアー:
季節ごとに地元の農家と連携し、果物狩りや野菜収穫体験ができるプランを提供。収穫した食材を使った料理を旅館で提供するオプションも。 - 地域散策ガイド付きプラン:
地元の歴史や文化に詳しいガイドを同行させ、周辺の隠れた名所や旧跡を巡るウォーキングツアーを実施。 - 地元イベントとの連動:
地域のお祭りや花火大会などのイベント開催時期に合わせて、特別宿泊プランやイベント参加チケット付きプランを提供。
これらの取り組みにより、旅館の魅力を周辺地域の魅力と一体化させることに成功しました。
お客様は旅館に泊まるだけでなく、その地域ならではの「体験」を求めて訪れるようになり、リピーターの獲得にも繋がっています。
- 旅館単体ではなく、地域全体で魅力を創出するという視点。
- 「モノ」ではなく「コト」消費を重視し、記憶に残る体験を提供したこと。
- 地元との強固な連携により、他にはない独自性の高いプランを造成できたこと。
事例3:最新テクノロジーを活用した顧客体験の向上 – 「パーソナライズ化」を進めるビジネスホテル
ビジネスホテルは、多様なニーズを持つビジネスパーソンに対応する必要があります。
あるビジネスホテルチェーンでは、最新のテクノロジーを駆使して顧客体験の「パーソナライズ化」を図ることで、顧客満足度とリピート率を高め、結果として稼働率向上に繋げています。
「パーソナライズ化」とは、個々のお客様の好みや行動履歴に合わせて、最適な情報やサービスを提供することです。具体的な取り組みは以下の通りです。
- AIを活用したレコメンデーション:
過去の宿泊履歴や利用サービス、アンケート結果などに基づき、お客様一人ひとりに合わせた客室タイプやアメニティ、周辺飲食店、観光情報などをAIが提案。 - スマートチェックイン/チェックアウト:
スマートフォンアプリやWebサイトでの事前チェックイン、QRコードや顔認証によるスムーズなチェックイン/チェックアウトを導入。 - 客室内スマートデバイスの導入:
客室内のタブレット端末から、照明や空調の操作、ルームサービスの注文、周辺施設の情報検索、コンシェルジュへの問い合わせなどが可能に。
お客様の好みに合わせてBGMを自動再生する機能なども。 - 顧客データの一元管理と分析:
予約システム、POSシステム、CRM(顧客関係管理)システムを連携させ、お客様の情報を一元管理。これにより、お客様の滞在履歴や嗜好を詳細に把握し、個別のサービス提供に活用。
例えば、連泊のお客様には、過去に利用したことのある特定のアメニティを予め準備しておく、といった細やかな配慮も可能に。
これらのテクノロジー活用により、お客様はストレスフリーで快適な滞在を享受できるようになり、「自分に合ったサービス」を提供してくれるホテルとして高い評価を得ています。
ビジネスパーソンは時間の節約や効率性を重視するため、このようなスムーズでパーソナライズされたサービスは大きなアドバンテージとなります。
- お客様の「不便」を解消し、「快適さ」を追求するためにテクノロジーを戦略的に導入したこと。
- 集めたデータをただ蓄積するだけでなく、具体的なサービス改善やパーソナライズに活用したこと。
- テクノロジーの導入だけでなく、それによって生まれた時間を従業員がお客様とのコミュニケーションに費やすことで、より質の高いおもてなしを実現していること。
稼働率アップのための実践的ヒント

これらの成功事例から見えてくるのは、「お客様を知り、お客様が求める価値を提供すること」の重要性です。
では、貴施設で稼働率アップを実現するために、今日からできる実践的なヒントをいくつかご紹介しましょう。
1. ターゲット顧客の再定義と深掘り
漠然と「全ての人」をターゲットにするのではなく、「誰に一番来てほしいのか」を明確にしましょう。
年齢層、職業、趣味、旅行の目的、消費行動などを具体的にイメージします。
既存のお客様のデータ(予約サイトの評価、アンケート、SNSでの言及など)を分析し、「どんなお客様が、何に満足し、何を求めているのか」を深く理解しましょう。
ペルソナ(架空の理想の顧客像)を作成するのも有効です。
2. 独自の「体験」を企画する
ただ宿泊するだけでなく、お客様が「ここでしかできない」と思えるようなユニークな体験を提供しましょう。
地域の文化、自然、食、歴史など、貴施設が立地する場所の「資産」を最大限に活用し、他にはないオリジナルの体験プログラムを企画します。
元事業者との連携は必須です。
イベント開催も有効です。
例えば、季節ごとのワークショップ、地元の食材を使った料理教室、文化体験イベントなどを開催し、それを宿泊プランに組み込みます。
3. オンラインプレゼンスの強化
自社ウェブサイトの充実:
施設の魅力が伝わる高品質な写真や動画、詳細な情報を提供しましょう
予約導線を分かりやすくし、スマートフォンからのアクセスにも最適化します。
OTA(オンライン旅行代理店)の活用と最適化:
Booking.com、Expedia、楽天トラベル、じゃらんnetなど、主要なOTAでの掲載を強化し、写真、説明文、プラン内容を常に最新の状態に保ちましょう。
レビューへの返信も非常に重要です。
SNSマーケティングの強化:
Instagram、Facebook、X(旧Twitter)、TikTokなど、ターゲット層が利用しているSNSを選定し、定期的に魅力を発信しましょう。
視覚に訴えるコンテンツ(写真、動画)が特に有効です。
ハッシュタグを効果的に使い、ユーザー参加型のキャンペーンも企画してみましょう。
Googleマイビジネスの最適化:
Google検索やGoogleマップで施設を検索された際に、正しい情報が表示されるよう、常に最新の情報に更新し、写真を追加しましょう。
口コミへの返信も丁寧に行うことで、信頼性が高まります。
4. 顧客エンゲージメントの向上
CRM(顧客関係管理)システムの導入:
顧客情報を一元管理し、個々のお客様に合わせたパーソナライズされたコミュニケーションを実現しましょう。
例えば、誕生日月に特典付きのメッセージを送る、過去の宿泊履歴に基づいておすすめプランを提案するなど。
ロイヤルティプログラムの導入:
リピーターを増やすために、ポイントシステムや会員特典、限定プランなどを提供し、お客様が繰り返し宿泊したくなるような仕組みを作りましょう。
滞在中の細やかな気配り:
お客様のニーズを先読みし、きめ細やかなサービスを提供することで、満足度を高めます。
例えば、到着前のウェルカムメッセージ、滞在中の困りごとへの迅速な対応、出発時の感謝のメッセージなど。
5. データに基づいたPDCAサイクルの確立
稼働率、平均客室単価(ADR)、RevPAR(販売可能客室数あたりの収益)といった主要な指標を常にモニタリングしましょう。
どのマーケティング施策が、どのくらいの効果をもたらしたのかをデータに基づいて検証します。
例えば、SNSからの予約数、特定のプランの販売状況、OTAごとの予約比率など。
成功した施策はさらに伸ばし、効果が薄かった施策は改善するか、別の方法を試すなど、常に改善を繰り返すことが重要です。
まとめ:変化を恐れず、お客様の声に耳を傾ける
稼働率アップは一朝一夕で達成できるものではありません。しかし、ご紹介した成功事例やヒントは、「お客様を深く理解し、お客様が真に求める価値を提供すること」という普遍的な原則に基づいています。
市場は常に変化しています。新しいテクノロジーが登場し、お客様のニーズも多様化しています。
大切なのは、常に変化を恐れずに新しい情報を取り入れ、お客様の声に真摯に耳を傾け、貴施設ならではの魅力を最大限に引き出す努力を続けることです。
この記事が、皆様のホテルの稼働率向上に少しでも貢献できれば幸いです。
もし、具体的な施策についてさらに詳しく知りたい、貴施設に合った戦略を一緒に考えたい、といったご要望がございましたら、お気軽にご相談ください。
貴施設の未来が、お客様の笑顔と高い稼働率で満たされることを心から願っております。