
「最近、どうもOTA(※1)からの予約ばかりで利益率が低い…」
「昔ながらのやり方だけでは、新しいお客様が増えない…」
「Webが重要とは分かっているが、何から手をつけていいのか分からない…」
多くの旅館経営者様や支配人様が、このような悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
旅行のスタイルが多様化し、情報収集の主戦場がインターネットに移った今、伝統やおもてなしの心だけでは、お客様にその魅力を見つけてもらうことすら難しくなっています。
かつて頼りにしていた旅行代理店や雑誌広告の効果は薄れ、かといってOTAに頼りすぎると、手数料の負担や価格競争に巻き込まれ、旅館本来の価値を伝えきれないジレンマに陥りがちです。
しかし、悲観する必要はまったくありません。
Webマーケティングは、決して難しい専門家のためのものではなく、あなたの旅館の魅力を、それを求めている未来のお客様へ直接届けるための、強力な「架け橋」だからです。
このコラムでは、Webマーケティングの専門家ではない方でも、明日から実践できる具体的な手法を、順を追って分かりやすく解説していきます。
この記事を読み終える頃には、あなたの旅館に合った集客のヒントがきっと見つかるはずです。
(※1) OTA:Online Travel Agentの略。楽天トラベルやじゃらんnetなど、インターネット上だけで取引を行う旅行会社のこと。
なぜ今、旅館にこそWebマーケティングが必要なのか?
具体的な手法に入る前に、なぜこれほどまでにWebマーケティングが重要なのか、その理由を3つのポイントからご説明します。
ここを理解することが、遠回りのようで一番の近道になります。
1. お客様の「旅の始まり」が変化したから
ひと昔前、旅行の計画はパンフレットを眺めることから始まりました。
しかし今はどうでしょう。ほとんどのお客様が、スマートフォンで「〇〇(地名) 温泉 旅館」「〇〇(観光地) 周辺 宿」といったキーワードで検索することから旅を始めます。
Instagramで「#〇〇旅行」と検索して宿を探したり、Googleマップで口コミの良い旅館を探したりするのも当たり前になりました。
つまり、お客様はWeb上に存在する情報の中から、あなたの旅館を見つけ出すのです。
この「最初の接点」をWeb上に持てなければ、そもそも選択肢にすら入ることができません。
2. OTA依存経営からの脱却
OTAは絶大な集客力を持つ一方で、10%前後の販売手数料がかかることが一般的です。
また、多くの施設が掲載されているため、お客様の目はどうしても価格や割引プランに向きがちになり、静かな環境やこだわりの料理といった、あなたの旅館が本当に大切にしている価値が伝わりにくくなります。
自社の公式ウェブサイトからの直接予約(直販)比率を高めることができれば、手数料分の利益が改善されるだけでなく、お客様に旅館の魅力を深く伝え、価格以外の価値で選んでもらえるようになります。
3. 「あなただけの顧客」と繋がれるから
Webマーケティングの最大の強みは、一度ご宿泊いただいたお客様や、あなたの旅館に興味を持ってくれたお客様と、継続的な関係を築けることです。
例えば、メールマガジンやLINE公式アカウントを通じて、季節のお料理や新しいプランのご案内、お得なクーポンなどを直接お届けできます。
このような繋がりは、お客様の再訪(リピート)を促し、旅館の安定経営に不可欠な「ファン」を育てていくことに繋がるのです。
Webマーケティング成功への3つのステップ
では、具体的に何から始めれば良いのでしょうか。
ここでは、Webマーケティングを成功させるための基本的な3つのステップをご紹介します。
ステップ1:自社の「強み」と「お客様」を再発見する
まず初めに行うべきは、パソコンの前に座ることではなく、自社の旅館をじっくりと見つめ直すことです。
- 私たちの旅館の一番の自慢は何か? (例:源泉掛け流しの露天風呂、地元の旬の食材を活かした創作会席、若女将の心のこもったおもてなし、窓から見える絶景)
- どんなお客様に一番喜んでいただけるだろうか? (例:都会の喧騒を離れて静かに過ごしたいご夫婦、三世代で気兼ねなく楽しめる旅行を計画しているご家族、記念日を特別に祝いたいカップル)
このように、自社の「強み(提供価値)」と、それを最も求めている「お客様像(ターゲット)」を明確にすること。
これが全ての基本です。
この軸が定まることで、後述する情報発信の内容がブレなくなり、お客様の心に響くメッセージを届けることができます。
ステップ2:魅力が伝わる「公式ウェブサイト」を育てる
公式ウェブサイトは、Web上の「本館」です。
どんなに素晴らしい旅館でも、本館が古びていて魅力が伝わらなければ、お客様は泊まりたいと思ってくれません。
以下のポイントを見直してみましょう。
写真は最高のおもてなし
お客様が最も重視するのは写真です。プロのカメラマンに依頼するなど、お料理、客室、温泉、外観の写真には徹底的にこだわりましょう。特に、スマートフォンで見たときの美しさを意識してください。
予約までの流れはスムーズか
宿泊プランの内容は分かりやすいか、空室検索や予約ボタンはすぐに見つかるか。お客様を迷わせない、シンプルな予約導線が理想です。
スマートフォンで見やすいか
予約者の半数以上がスマートフォンを利用する時代です。PCだけでなく、スマートフォンで見たときに文字が小さすぎたり、表示が崩れたりしないか(レスポンシブ対応と呼ばれます)は必ず確認しましょう。
ステップ3:具体的な集客施策を実行する
土台が整ったら、いよいよお客様を呼び込むための具体的な施策に移ります。次の章で、明日から実践できる5つの手法を詳しくご紹介します。
明日から実践!旅館の集客を加速させるWebマーケティング手法5選
ここでは、数あるWebマーケティング手法の中から、特に旅館の集客に効果的で、比較的始めやすいものを5つ厳選しました。
すべてを一度にやる必要はありません。
まずは自社の状況に合いそうなもの、興味があるものから一つ試してみてください。
1. SEO対策:検索エンジンから見つけてもらう技術
SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)とは、GoogleやYahoo!などで検索された際に、自社のウェブサイトを上位に表示させるための対策です。
例えば、箱根で露天風呂付き客室のある旅館を探しているお客様が「箱根 旅館 露天風呂付き客室」と検索した時に、あなたの旅館が1ページ目に表示されれば、予約に繋がる可能性は飛躍的に高まります。
- 【実践のヒント】ブログで地域の魅力を発信する ウェブサイト内にブログ機能(お知らせや宿だよりなど)があれば、それを活用しない手はありません。「当館から車で15分のおすすめ紅葉スポット」「地元の人しか知らない桜の名所」といった、周辺の観光情報を発信してみましょう。お客様にとって有益な情報を発信することで、ウェブサイト全体の評価が高まり、「地域名+旅館」などのキーワードで検索されやすくなります。これは、広告費をかけずにできる、非常に効果的な資産となります。
2. MEO対策:Googleマップで選ばれる工夫
MEO(Map Engine Optimization:マップエンジン最適化)とは、主にGoogleマップ上での検索結果で上位表示を目指す対策です。
「近くの温泉旅館」と検索したお客様に、あなたの旅館を見つけてもらうための重要な施策です。
- 【実践のヒント】Googleビジネスプロフィールを充実させる Googleビジネスプロフィールは、無料で利用できる非常に強力なツールです。まずは自社の情報を登録し、正確な住所、電話番号、ウェブサイトURLを入力しましょう。そして、最も重要なのが「写真」と「口コミ」です。魅力的な写真をたくさん掲載し、お客様から投稿された口コミには、感謝の気持ちを込めて丁寧に返信しましょう。誠実な対応は、他のお客様にも良い印象を与え、予約の後押しとなります。
3. SNS活用:旅館の「ファン」を作る
InstagramやFacebookなどのSNSは、旅館の日常や世界観を伝え、お客様と直接コミュニケーションをとることで「ファン」を作るのに最適なツールです。
- 【実践のヒント】Instagramで「泊まってみたい」を演出する 旅館と最も相性が良いSNSの一つが、写真や動画がメインのInstagramです。湯気の立つ朝食、夕暮れ時の露天風呂、スタッフの笑顔など、ウェブサイトには載せきれない「ライブ感」のある魅力を発信しましょう。お客様が投稿してくれた写真を紹介したり、「#(旅館名)」で感想を投稿してもらうよう促したりすることで、口コミが自然と広がっていきます。
4. Web広告:届けたいお客様に的を絞ってアピール
Web広告は費用がかかりますが、届けたいお客様に的を絞って情報を発信できるため、費用対効果が高い手法です。
少ない予算(例えば1日1,000円など)からでも始めることができます。
- 【実践のヒント】リターゲティング広告を試してみる 「一度、自社のウェブサイトを見たけれど予約せずに離れてしまったお客様」だけに、広告を表示する手法をリターゲティング広告と呼びます。一度は興味を持ってくれた、いわば「見込み客」に再度アピールするため、予約に繋がりやすいのが特徴です。夏のプランを探していたお客様に、秋の紅葉プランの広告を見せるなど、季節に合わせたアプローチも効果的です。
5. メルマガ・LINE:最高の顧客である「リピーター」を育てる
新規顧客の獲得には、リピーター維持の5倍のコストがかかると言われています。
一度ご宿泊いただいたお客様との繋がりを大切にし、再訪を促すことは経営の安定に直結します。
- 【実践のヒント】LINE公式アカウントで特別なご案内を チェックインの際などに、LINE公式アカウントへの友だち登録をご案内し、「友だち限定の割引クーポン」や「先行予約プラン」など、特別な情報をお届けします。メールよりも開封率が高いLINEは、お客様との距離を縮め、親近感を持ってもらうのに非常に有効なツールです。
まとめ:小さな一歩が、未来を大きく変える
Webマーケティングと聞くと、難しくてハードルが高いと感じてしまうかもしれません。
しかし、その本質は「私たちの旅館の魅力を、いかにお客様に分かりやすく、そして深く伝えるか」という、皆様が日頃から大切にされている「おもてなしの心」と何ら変わりはありません。
今回ご紹介した5つの手法は、それぞれが独立しているようで、実は密接に連携しています。
ブログで発信した情報が検索で見つけてもらうきっかけになり、SNSでファンになったお客様がウェブサイトを訪れ、宿泊後の感動を口コミに投稿してくれる。
そして、その口コミが、また新しいお客様を呼び込んでくれる。
このような好循環を生み出すことが、Webマーケティングの最終的な目標です。
すべてを一度に始める必要はありません。
まずは、Googleビジネスプロフィールの情報を更新してみる。
Instagramに料理の写真を一枚投稿してみる。そんな小さな一歩からで大丈夫です。
その一歩が、これからの旅館経営を支える大きな力となるはずです。
お客様との新しい出会いを創出するために、そして、あなたの旅館が持つ唯一無二の価値を未来に繋いでいくために、Webマーケティングという新しい武器を手に取ってみてはいかがでしょうか。