
昨今、旅行のスタイルは大きく変化し、お客様が宿を探す方法はインターネット、特にスマートフォンでの検索が主流となりました。
多くの施設様がOTA(Online Travel Agent)*¹ を活用されていることと思いますが、一方で「OTAへの手数料負担が大きい」「もっと自社サイトからの直接予約を増やしたい」という切実な声も数多くお聞きします。
※注1 OTA(Online Travel Agent):楽天トラベル、じゃらんnet、Booking.comなど、インターネット上だけで取引を行う旅行会社のこと。
その課題を解決する強力な一手こそが、今回お話しする「SEO対策」*² です。
※注2 検索エンジン最適化(SEO): GoogleやYahoo!などの検索エンジンで、特定のキーワードで検索された際に、自社のWebサイトを上位に表示させるための一連の施策のこと。
SEO対策と聞くと、「何だか難しそう」「専門業者に任せないと無理なのでは?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ポイントさえ押さえれば、自社のスタッフで実践でき、かつ大きな成果に繋がる、非常に費用対効果の高い集客手法なのです。
本コラムでは、特に「地域名 × 宿タイプ」というキーワード戦略に焦点を当て、旅館・ホテルが自社の魅力をお客様に直接届け、予約に繋げるための具体的なSEO対策について解説していきます。
この記事を読み終える頃には、明日から何をすべきか、明確な道筋が見えているはずです。
第1章:なぜ今、旅館・ホテルにSEO対策が必要不可欠なのか?
具体的な手法に入る前に、なぜこれほどまでにSEO対策が重要なのか、その背景からご説明します。
1. OTA依存からの脱却と利益率の改善
皆様もご存知の通り、OTA経由の予約には10~20%程度の販売手数料が発生します。
これは集客にかかる広告宣伝費として必要なコストではありますが、この比率が高まれば高まるほど、施設の利益を圧迫していくことになります。
もし、自社サイトからの直接予約が1件増えれば、その手数料分がそのまま施設の利益となります。
仮に1泊30,000円の予約であれば、10%でも3,000円の利益が上乗せされる計算です。
この差は、年間にすれば数百万円、数千万円という大きな金額になり得ます。
SEO対策によって自社サイトへのアクセスが増え、直接予約の比率が高まることは、経営体質の強化に直結するのです。
2. お客様との直接的な関係構築とブランディング
自社サイトは、施設の「顔」であり、コンセプトや世界観、こだわりを自由に表現できる唯一の場所です。
OTAの画一的なフォーマットの中では伝えきれない、女将の想いや料理長のこだわり、スタッフの笑顔といった「宿の物語」を伝えることで、お客様に深く共感していただき、ファンになっていただくことができます。
SEO対策を通じて自社サイトに訪れてもらったお客様は、価格だけでなく、その宿ならではの価値に魅力を感じてくれる可能性が高い「質の高い見込み客」です。
こうしたお客様と直接繋がることで、リピート利用にも繋がりやすくなり、安定した経営基盤を築くことができるでしょう。
3. SEO対策は「資産」になる
Web広告は、費用を投じている間は効果がありますが、止めればアクセスはゼロになります。
一方、SEO対策は、一度上位表示を達成すると、継続的なメンテナンスは必要ですが、比較的安定してアクセスを集め続けてくれます。
時間をかけて作り上げた質の高いコンテンツや、最適化されたWebサイトは、インターネット上に在り続ける「資産」となります。
コツコツと育てていくことで、将来にわたって集客をし続けてくれる、頼もしい営業マンになってくれるのです。
第2章:SEO対策の基本の「き」~Googleの気持ちを理解する~

さて、いよいよ本題のSEO対策です。SEOとは「Search Engine Optimization」の略で、日本語では「検索エンジン最適化」*² と訳されます。
簡単に言えば、「GoogleやYahoo!などの検索エンジンで、特定のキーワードで検索された際に、自社のWebサイトを上位に表示させるための取り組み」のことです。
ここで最も重要な心構えは、「Googleが何を目指しているのか」を理解することです。
Googleの使命は、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」です。つまり、検索ユーザーが何かを検索した時に、その人が最も知りたい、最も役に立つ情報を、最も的確に提供したいと考えています。
ということは、私たちがやるべきSEO対策の本質は、小手先のテクニックではありません。
「検索してくれたお客様にとって、最高に価値のある、分かりやすい情報を提供する」――これに尽きるのです。
この大原則を常に念頭に置いておきましょう。
第3章:最強のキーワード戦略「地域名 × 宿タイプ」とは?
お客様にとって価値のある情報を提供するといっても、闇雲に情報を発信していては効果は出ません。
重要なのは、「どのような言葉で検索しているお客様に、情報を届けたいのか」を明確にすること、つまり「キーワード戦略」です。
そこで、私たちが提唱するのが「地域名 × 宿タイプ」というキーワードの組み合わせです。
SEO対策というと、闇雲にアクセス数を増やすことだと考えられがちですが、それは間違いです。
私たち宿泊業が目指すべきは、単なるアクセス数の増加ではなく、「宿泊予約につながる質の高いアクセス」を増やすことです。
ここで、お客様が宿を探す際の行動を想像してみてください。
例えば、京都で温泉のある旅館に泊まりたいと考えているお客様は、どのような言葉で検索するでしょうか?
おそらく、「京都 旅館 温泉」や「京都 温泉旅館 おすすめ」といったキーワードで検索するはずです。
この「地域名(京都) × 宿タイプ(温泉旅館)」という組み合わせは、お客様のニーズが非常に具体的であり、宿泊する意思が固まっている状態を示しています。
このような検索をするお客様は、単に「京都 観光」と検索する人に比べて、予約に至る確率(コンバージョン率※注3)が格段に高い「今すぐ客」なのです。
一方で、「京都」や「旅館」といった単一のキーワード(ビッグキーワードと呼ばれます)で上位表示を目指すのは、大手OTAや巨大メディアがひしめき合っており、膨大な費用と労力がかかる上に、必ずしも予約に直結するとは限りません。
私たちの戦略は、競争が激しいレッドオーシャンを避け、自館の強みが最も活かせるブルーオーシャン、すなわち「地域名 × 宿タイプ」という領域で確実に勝利を収めることにあります。
この戦略のメリットは計り知れません。
- 高い成約率: 宿泊意欲の高いユーザーに直接アプローチできる。
- 低い競争率: ビッグキーワードに比べて競合が少なく、上位表示を狙いやすい。
- ブランディング効果: 特定の分野(例:「箱根の露天風呂付き客室が自慢の宿」)での第一人者としての認知度が高まる。
- 広告費の削減: SEOは一度上位表示されれば、広告費をかけずとも継続的に集客が見込める。
まずは、この「地域名 × 宿タイプ」こそが、自社サイト集客の生命線であるとご理解ください。
※注3 コンバージョン率(CVR):ウェブサイトへのアクセス数のうち、予約や問い合わせなどの成果(コンバージョン)に至った件数の割合。
第4章:【準備編】自館の「宿タイプ」を定義し、戦場を知る

効果的なSEO対策は、周到な準備から始まります。
以下の3つのステップで、自館が戦うべき場所を明確にしましょう。
ステップ1:自館の「宿タイプ」を徹底的に言語化する
あなたの宿は、お客様にどのような価値を提供できますか?
単に「旅館」や「ホテル」と一括りにせず、提供価値を具体的に表現する「宿タイプ」を洗い出してみましょう。これが、狙うべきキーワードの核となります。
<宿タイプの洗い出し例>
- 施設の特徴:
温泉旅館、露天風呂付き客室のある宿、古民家宿、町屋ホテル、デザイナーズホテル、オーシャンビューのホテル、全室スイートのホテル - ターゲット顧客:
カップルにおすすめの宿、記念日向けの宿、女子旅向けの宿、一人旅歓迎の宿、家族旅行向けの宿、ペットと泊まれる宿、赤ちゃん連れに優しい宿 - 食事の魅力:
部屋食が楽しめる旅館、地元の食材にこだわるオーベルジュ、朝食が自慢のホテル - 価格帯:
高級旅館、ラグジュアリーホテル、格安ホテル、コスパの良い宿 - その他:
ワーケーション対応ホテル、サウナが自慢の宿、星空が見える宿
これらの要素を組み合わせることで、より具体的なキーワードが生まれます。
例:「箱根 温泉旅館 露天風呂付き客室」「金沢 町屋ホテル 一棟貸し」「沖縄 オーシャンビューホテル 子連れ」
最低でも5つ、できれば10個以上の「宿タイプ」をリストアップしてください。これがあなたの武器になります。
ステップ2:キーワードを調査する
次に、お客様が実際にどのような言葉で検索しているかを確認します。
専門的なツールも多くありますが、まずは無料で使えるGoogleの機能で十分です。
- Google検索のサジェスト機能:
Googleの検索窓に「(自館の地域名)+(ステップ1で出した宿タイプ)」を入力してみてください。例えば「伊豆 旅館」と入力すると、「伊豆 旅館 部屋食」「伊豆 旅館 露天風呂付き客室 カップル」といった候補が自動的に表示されます。
これらは、多くの人が実際に検索している人気のキーワードです。 - 関連する検索キーワード:
検索結果ページの一番下には「関連する検索キーワード」が表示されます。
ここにも、お客様のニーズを探るヒントが満載です。
これらの調査を通じて、お客様が使う「生きた言葉」を集め、自館の強みと合致するキーワードを2~3個、最優先で狙う「対策キーワード」として決定します。
ステップ3:競合を分析する
決定した「対策キーワード」で、実際に検索してみてください。
検索結果の1ページ目に表示されるのは、現在のあなたの競合です。その上位1~5位までのウェブサイトをじっくりと観察しましょう。
- どのようなタイトルをつけているか?
- どのような写真を使っているか?
- どのような内容(コンテンツ)が書かれているか?
- 自館が彼らよりも優れた情報を提供できる点はどこか?
競合の強みと弱みを分析することで、自社サイトがどのような情報を、どのように伝えれば勝てるのか、その戦略が見えてきます。
第5章:【実践編】自社サイトを「地域名 × 宿タイプ」仕様に最適化する

準備が整ったら、いよいよ自社サイトの最適化(SEO内部対策)に着手します。
ここでは、特に重要な4つのポイントに絞って解説します。
1. 最重要:ページの「タイトル(Titleタグ)」を最適化する
タイトルタグは、検索結果で青い文字で表示される、いわば「ウェブサイトの看板」です。ここに対策キーワードを含めることが、SEOにおいて最も重要です。
<タイトルの黄金律>【宿の魅力が伝わるキャッチコピー】地域名+宿タイプ|旅館・ホテル名
トップページ|〇〇旅館
これでは、あなたの旅館がどこにあって、どんな特徴があるのか全く伝わりません。
【全室露天風呂付き】箱根の隠れ家温泉旅館|〇〇旅館
このタイトルなら、お客様は一目で「箱根にあって、全室に露天風呂が付いている温泉旅館なんだ」と理解でき、クリックしたくなります。
ウェブサイトのトップページだけでなく、お部屋ページ、温泉ページ、お料理ページなど、すべてのページに、そのページの内容に合った適切なタイトルをつけましょう。
2. クリックを誘う「ディスクリプション(Description)」
ディスクリプションは、検索結果のタイトルの下に表示される説明文のことです。
直接的な検索順位への影響は少ないとされていますが、ユーザーのクリック率を大きく左右する重要な要素です。
ここには、対策キーワードを自然に含めつつ、120文字程度で宿の魅力を要約し、「この宿のサイトを見てみたい!」と思わせるような文章を書きましょう。
予約ページへのリンクや電話番号を記載するのも効果的です。
<ディスクリプションの例(上記タイトルの場合)>箱根の自然に抱かれた隠れ家温泉旅館「〇〇旅館」。全室に源泉かけ流しの露天風呂を完備。大切な方との記念日やご夫婦でのご旅行に最適です。公式サイト限定の宿泊プランもご用意。ご予約はこちらから。
3. ページの情報を整理する「見出し(h1, h2タグ)」
ウェブページ内の文章は、見出しタグ(h1, h2, h3...)を使って構造化することが重要です。
これは、ユーザーにとっても、検索エンジンにとっても、ページの内容を理解しやすくする効果があります。
- h1タグ: そのページの最も重要な大見出し。タイトル(titleタグ)と近い内容で、対策キーワードを含めます。(通常、1ページに1つだけ)
- h2タグ: h1の内容を補足する中見出し。関連するキーワードを含めると効果的です。
- h3タグ: h2の内容をさらに細分化する小見出し。
例えば、「露天風呂付き客室」の紹介ページであれば、以下のような構成が考えられます。
このように見出しを適切に使うことで、情報が整理され、非常に分かりやすくなります。
4. "神は細部に宿る" コンテンツの質と量
Googleが最も評価するのは、「ユーザーにとって価値のある、専門的で信頼できる情報」です。
キーワードを詰め込むだけでは、もはや上位表示はできません。
「地域名 × 宿タイプ」で検索してきたお客様が「知りたい!」と思っている情報を、どこよりも詳しく、魅力的に伝えましょう。
- 写真と動画:
高画質の美しい写真は必須です。可能であれば、お部屋や温泉の様子が分かる360度ビューや動画も活用しましょう。お客様が「泊まった気分」になれるような視覚情報が重要です。 - 文章の具体性:
- 温泉なら…泉質、効能、温度、加水・加温の有無、入浴時間などを具体的に。
- 料理なら…メニューだけでなく、食材の産地や料理長のこだわり、器の話などをストーリーとして語る。
- 客室なら…広さ(平米数)、ベッドのサイズやメーカー、アメニティの詳細まで記載する。
- ブログの活用:
「宿ブログ」や「お知らせ」の機能を活用し、周辺の観光情報、季節のイベント、スタッフのおすすめ情報などを定期的に発信しましょう。「(地域名)+〇〇」というキーワードでアクセスを集めるための強力な武器になります。
第6章:【応用編】サイト外からの評価を高める施策
自社サイトの内部を整えたら、次はサイトの「外」からの評価を高める施策(SEO外部対策)にも目を向けましょう。
1. Googleビジネスプロフィールの徹底活用
「地域名+宿タイプ」で検索すると、多くの場合、検索結果の上部に地図と共にいくつかの施設が表示されます。
これは「ローカルパック」と呼ばれるもので、ここに表示されるかどうかが集客を大きく左右します。
この地図情報のもとになっているのが「Googleビジネスプロフィール(旧:Googleマイビジネス)」です。
これは無料で使える非常に強力なツールですので、必ず登録し、情報を常に最新の状態に保ってください。
- 正確な情報: 宿名、住所、電話番号、ウェブサイトURLを正確に登録。
- カテゴリ設定: 「旅館」「ホテル」「温泉旅館」など、自館に最も合ったカテゴリを設定。
- 写真の充実: 外観、ロビー、客室、大浴場、料理など、魅力的な写真を30枚以上登録することを目標に。
- 口コミへの返信: お客様からの口コミには、良い内容にも、厳しいご意見にも、すべて丁寧に返信しましょう。誠実な姿勢は他のお客様にも伝わります。
2. 信頼の証「被リンク」の獲得
被リンクとは、他のウェブサイトから自社サイトに向けて設置されたリンクのことです。
Googleは、質の高いサイトからの被リンクを「信頼の証」とみなし、評価を高める傾向があります。
とはいえ、不自然なリンクの売買はペナルティの対象となるため厳禁です。
宿泊施設が自然な形で被リンクを獲得するには、以下のような方法が考えられます。
- 地域の観光協会や商工会議所のウェブサイトに掲載してもらう。
- 取引のある地元の飲食店やお土産物屋さんと相互にリンクを貼り合う。
- 地域のイベントに協賛し、公式サイトからリンクを貼ってもらう。
- 影響力のある旅行ブロガーに宿泊してもらい、体験記事を書いてもらう。(※PR表記は必須)
地道な活動ですが、地域との連携はSEOだけでなく、ビジネスそのものにとってもプラスに働きます。
おわりに:SEOは「おもてなし」のデジタル化
SEO対策は、一度やったら終わり、というものではありません。お客様のニーズの変化や競合の動きを見ながら、ウェブサイトを改善し続ける、長期的な視点が必要な「投資」です。
しかし、その本質は決して難しいものではありません。
「私たちの宿にお越しになるお客様は、どんな情報を求めているだろうか?」
「その情報を、どうすれば分かりやすく、魅力的に伝えられるだろうか?」
この問いに真摯に向き合い、ウェブサイト上で実践していくこと。
それは、皆様が日々実践されている「おもてなし」の心を、デジタルの世界で表現することに他なりません。
今回ご紹介した「地域名 × 宿タイプ」戦略は、その第一歩です。
まずは自館の強みを定義し、ターゲットキーワードを決め、ウェブサイトのタイトルや見出しを一つ見直すことから始めてみてください。
その小さな一歩が、OTAへの依存から脱却し、力強く自立した経営を実現するための、大きな推進力となるはずです。
このコラムが、皆様の旅館・ホテルの未来を明るく照らす一助となれば幸いです。
皆様の旅館・ホテルが、より多くのお客様に選ばれる存在となることを心より願っております。