SNSで予約が増える?ホテル・旅館のための集客術

「最近のお客様は、どうやって宿を探しているんだろう?」
「OTAや自社サイト以外に、何か新しい集客の方法はないだろうか?」

こうした疑問や課題意識をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
その答えの一つが、皆様も日常的に利用されているであろう「SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)」の活用です。

「うちみたいな宿がSNSをやっても…」
「投稿するネタなんてないよ」
と思われるかもしれません。
しかし、それは大きな機会損失です。
現代において、SNSは単なるコミュニケーションツールではありません。
「行ってみたい」という旅の動機を生み出し、予約にまで繋げる力を持った、極めて強力な集客チャネルなのです。

ただし、やみくもに綺麗な写真を投稿しているだけでは、残念ながら予約は増えません。
そこには、お客様の心を動かし、行動を促すための「戦略」が必要です。

本コラムでは、「SNSで本当に予約は増えるのか?」という疑問にお答えし、具体的なアカウントの選び方から、予約に繋げるための投稿術、そしてファンを作るためのコミュニケーション方法まで、徹底的に解説いたします。
この記事を読み終わる頃には、SNSが貴施設の強力な武器になる未来が見えているはずです。

第1章:なぜ今、ホテルや旅館などの宿泊施設にSNS活用が必須なのか?

具体的な手法の前に、まずは「なぜSNSがこれほど重要なのか」という時代の変化を共有させてください。この背景を理解することが、戦略的な活用の第一歩となります。

1. 旅の「探し方」が劇的に変化した

かつて、人々は旅行雑誌や分厚いガイドブックをめくり、旅の計画を立てていました。
その後、インターネットの普及により、GoogleやYahoo!で「地域名 宿」と検索するのが主流となりました。

そして今、特に若年層を中心に、新たな情報収集の形が生まれています。
それが、SNSでの「検索」と「発見」です。

彼らは、Instagramのハッシュタグ「#〇〇旅行」でリアルな旅の風景を探したり、TikTokでおすすめの宿のルームツアー動画を眺めたりする中で、
「あ、ここ素敵!」
「次のお休みはここに行きたい!」
という「直感的な発見」をします。
そこには、広告や公式サイトの綺麗な言葉以上に、一般の人が投稿した「リアルな体験談」や「本音の感想」を重視する傾向があります。

この変化に対応できているかどうか。
それが、これからの宿泊施設の集客を大きく左右するのです。

2. 「潜在顧客」にアプローチできる唯一無二のツール

SEO対策(検索エンジン対策)が、すでに旅行先などを決めている「顕在顧客」にアプローチする「待ち」の集客術だとすれば、SNSは、まだ具体的な旅行計画を立てていない「潜在顧客」にこちらからアプローチできる「攻め」の集客術と言えます。

何気なくスマートフォンを眺めている人のタイムラインに、貴施設の息をのむような絶景露天風呂の写真や、思わずお腹が鳴るような料理の動画が流れてきたらどうでしょう。その瞬間、「次の旅行はここしかない」という強烈な動機が生まれるかもしれません。

SNSは、お客様の「旅したい」という気持ちそのものを創り出すことができる、魔法のような可能性を秘めているのです。

3. お客様と繋がり、「ファン」を育てる場

自社サイトやOTAでは、どうしても施設側からの一方的な情報発信になりがちです。しかし、SNSは「双方向のコミュニケーション」が基本です。

お客様からのコメントに「ありがとうございます!〇〇様のお越しを心よりお待ちしております」と返信したり、DM(ダイレクトメッセージ)での質問に丁寧にお答えしたりする。こうした一つひとつのやり取りが、お客様との距離を縮め、親近感や信頼感を育みます。

単なる「一度泊まる宿」から、「いつも応援している大好きな宿」へ。SNSは、お客様を熱烈な「ファン」へと育てていくための、最高のコミュニケーションツールなのです。

第2章:どのSNSを選ぶべき?主要SNSの特徴と賢い使い分け

「よし、SNSを始めよう!」と決意した次に悩むのが、「どのSNSを使えばいいのか?」という点でしょう。結論から言うと、全てをやる必要はありません。
自施設の「強み」と「ターゲット顧客」に最も合ったSNSを選択し、そこに注力することが成功への近道です。

ここでは、主要な4つのSNSの特徴と、どのような施設に向いているかを解説します。

Instagram(インスタグラム)

ビジュアル訴求の王様

  • 特徴: 写真や動画(特にリールと呼ばれる短尺動画)が主役。美しいビジュアルで直感的に魅力を伝えることに最も長けています。「#(ハッシュタグ)」を使った検索が活発。
  • 向いている施設: 絶景が自慢の宿、デザイン性の高い建築や内装のホテル、見た目にも美しい料理やスイーツを提供する宿、非日常的な体験ができるグランピング施設など。
  • 主な利用者層: 20代〜40代の女性が中心。カップルや女子旅の計画に使われることが多い。
X(旧Twitter)

リアルタイム性と拡散力の鬼

  • 特徴: 140文字(日本語の場合)の短いテキストで、リアルタイムな情報を発信。リツイート機能による情報拡散力が非常に高いのが魅力です。キャンペーンの告知や、中の人のキャラクターを活かした親しみやすい投稿が効果的。
  • 向いている施設: イベントや季節限定プランを頻繁に行う施設、空室情報をリアルタイムで告知したいビジネスホテル、「中の人」のユニークな個性を打ち出してファンを作りたい施設。
  • 主な利用者層: 10代〜50代まで幅広い。情報収集に積極的な層が多い。
Facebook(フェイスブック)

信頼性とコミュニティ形成の場

  • 特徴: 実名登録が基本のため、情報の信頼性が高いとされています。比較的長い文章や、詳細な情報を伝えるのに向いています。イベントページの作成機能も強力で、既存顧客や地域との繋がりを深めるのに最適。
  • 向いている施設: リピーターが多く、顧客との長期的な関係を築きたい老舗旅館。地域密着型のイベントを開催する宿。比較的年齢層の高いお客様がメインターゲットの施設。
  • 主な利用者層: 30代〜50代以上が中心。ビジネス利用も多い。
TikTok(ティックトック)

動画による爆発的ヒットを生む

  • 特徴: 音楽に合わせた短い動画がメインのプラットフォーム。エンターテイメント性が高く、トレンドの移り変わりが非常に速いですが、ひとたび人気が出れば(バズれば)、爆発的な認知度向上に繋がります。
  • 向いている施設: ルームツアーや大浴場の紹介、料理の調理風景、驚きのサービスなど、動画でこそ伝わる魅力がある施設。若年層にアプローチしたい施設。
  • 主な利用者層: 10代〜20代が中心ですが、近年は30代以上の利用者も急増中。

まずは、自施設の魅力を最も伝えやすいのはどのSNSか、そして、呼びたいお客様はどのSNSを一番使っているかを考えてみてください。
迷ったら、まずはビジュアル訴求がしやすく、旅行との親和性が最も高いInstagramから始めることをおすすめします。

第3章:ただの投稿で終わらせない!予約に繋げるための具体的な5つの戦略

アカウントを開設したら、いよいよ運用のスタートです。
しかし、ここで多くの施設が「何を投稿すればいいか分からない」「投稿しても『いいね』がつかない」という壁にぶつかります。
そうならないための、予約に繋げる具体的な5つの戦略をご紹介します。

戦略1:届けたい相手を明確にする「ペルソナ設定」

最も重要なのが、「誰に、何を伝えたいのか」を明確にすることです。
そのために、「ペルソナ*¹」という、自施設にとって理想的な顧客像を具体的に設定しましょう。

¹ ペルソナ: サービスや商品の典型的なユーザー像のこと。年齢、性別、職業、価値観などを具体的に設定することで、ターゲット顧客への理解を深め、マーケティング戦略を立てやすくする手法。

(例)伊豆の海が見える露天風呂付き客室がある旅館の場合

  • 名前: 田中 美咲(たなか みさき)
  • 年齢: 32歳
  • 職業: 都内のIT企業で働く会社員(マーケティング担当)
  • 居住地: 東京都世田谷区
  • ライフスタイル: 仕事は忙しいが、年に2回は友人と少し贅沢な「ご褒美旅行」に行くのが楽しみ。普段からInstagramでおしゃれなカフェやホテルを探している。
  • 旅行に求めるもの: 日常を忘れられる癒やし、美味しい料理、友人との会話が弾むおしゃれな空間、SNSでシェアしたくなるような写真が撮れること。

このようにペルソナを具体的に設定すると、「美咲さんなら、どんな写真を見たら『泊まりたい!』と思うだろう?」「どんな言葉をかけたら響くだろう?」と、発信する内容(コンテンツ)の軸が定まり、投稿に一貫性が生まれます。

戦略2:世界観で魅了する「コンセプト」と「トンマナ」の統一

SNSアカウントは、貴施設の「もう一つの公式サイト」です。
プロフィール画面を開いた瞬間に、どんな宿なのか、どんな体験ができるのかが伝わるように、世界観を作り込みましょう。

  • コンセプトの明確化: 「都会の喧騒を離れた大人の隠れ家」「家族三世代で楽しめる温泉リゾート」「ペットと泊まれるアクティブな宿」など、アカウントのコンセプトを一行で言えるようにします。
  • トンマナ(トーン&マナー*²)の統一:
    • 写真: 明るくふんわりした雰囲気、重厚でシックな雰囲気など、写真の色味や明るさを統一する。加工アプリのフィルターを固定するのも有効です。
    • 文章: 丁寧でかしこまった口調、フレンドリーで親しみやすい口調など、ペルソナに合わせた文章スタイルを決めます。
    • プロフィール: 宿の魅力と強みを簡潔に記載し、公式サイトへのリンクを必ず設置します。

² トンマナ(トーン&マナー): 広告やWebサイト、SNSアカウントなどで、ブランドイメージを一貫させるために設定されるデザインや文章表現のスタイルのこと。

統一された世界観は、お客様に安心感と期待感を与え、フォローに繋がりやすくなります。

戦略3:「中の人」を見せてファンを作る

完璧に作り込まれた美しい写真ばかりでは、お客様は「広告っぽさ」を感じてしまいます。
共感と親近感を生み、本当の意味でのファンになってもらうためには、施設の「素顔」や「物語」を見せることが効果的です。

舞台裏を見せる

客室清掃の様子、料理の仕込み風景、庭師の手入れなど、お客様が普段見ることのない裏側を公開する。

スタッフの紹介

笑顔が素敵なフロントスタッフ、食材に情熱を燃やす料理長、おもてなしの心を持つ女将など、「人」にフォーカスした投稿は共感を呼びます。

想いを語る

なぜこの地で宿を始めたのか、どんな想いで料理を提供しているのか、施設の歴史やこだわりをストーリーとして発信する。

「この人がいる宿だから、泊まりに行きたい」
そう思ってもらうことができれば、価格競争から一歩抜け出すことができます。

戦略4:お客様を巻き込む「UGC」の創出と活用

SNS集客で最も強力なコンテンツは、企業が発信する情報ではなく、実際に宿泊したお客様自身が発信する投稿(UGC*³)です。
これほど信頼性の高い口コミはありません。このUGCをいかに増やし、活用するかが成功の分かれ道です。

³ UGC(User Generated Content): 「ユーザー生成コンテンツ」の略。企業の作り手ではなく、一般のユーザー(消費者)によって制作・生成されたコンテンツのこと。SNSの投稿やレビューサイトの口コミなどが該当し、信頼性の高い情報として重視される。

【UGCを増やすための仕掛け】

フォトジェニックな仕掛け
館内に思わず写真を撮りたくなるようなスポット(素敵なデザインの壁、絶景のブランコ、ウェルカムドリンクなど)を用意する。

独自ハッシュタグの作成
「#〇〇旅館の思い出」「#〇〇ホテルステイ」のような独自のハッシュタグを作り、投稿を促すキャンペーン(投稿者の中から抽選で宿泊券プレゼントなど)を実施する。

館内での呼びかけ
客室の案内やロビーに、「ぜひ『#〇〇旅館』をつけてご投稿ください!」といった可愛いPOPを設置する。

    そして、投稿されたUGCは、必ず投稿者の許可を得た上で、自社のアカウントで
    「こんな素敵なお写真を投稿いただきました!」
    とリポスト(再投稿)させてもらいましょう。
    これにより、第三者からの客観的な評価として、アカウントの信頼性が格段に向上します。

    戦略5:SNSから予約へ。迷わせない「導線設計」

    どんなに素敵な投稿で「泊まりたい!」と思ってもらっても、そこから予約ページへの行き方が分からなければ、お客様は離脱してしまいます。
    SNSから予約完了まで、お客様をスムーズに案内する「導線」を設計しましょう。

    • プロフィールに予約リンクを設置:
      アカウントの顔であるプロフィール欄に、自社サイトの「宿泊予約ページ」へのリンクを必ず設置します。これが最も重要な導線です。
    • 投稿で毎回案内する:
      投稿の最後には、「ご予約・詳細はプロフィールのリンクから @(自社アカウント名)」といった一文を必ず入れ、予約ページへ誘導する習慣をつけましょう。
    • ストーリーズの活用:
      24時間で消える「ストーリーズ」機能は、気軽に情報を発信するのに最適です。ここに「リンクスタンプ」を貼り、特定の宿泊プランに直接誘導することも可能です。「本日限定!」「今週末まだ空室あります」といった緊急性の高い情報発信に効果的です。
    • SNS限定プランの作成:
      「Instagramフォロワー様限定プラン」などを用意し、SNS経由での予約にメリットを付けることで、予約への最後の一押しをします。

    まとめ:SNSは、未来のファンと出会う「おもてなし」の舞台

    SNS集客は、一朝一夕で成果が出るものではありません。
    しかし、地道に続けることで、広告費をかけずに集客できる強力な武器となり、施設の経営を支える太い柱へと成長します。

    重要なのは、SNSを単なる「宣伝ツール」と捉えるのではなく、「未来のお客様と出会い、コミュニケーションを通じてファンになっていただくための、おもてなしの舞台」と考えることです。

    貴施設が大切にしている想い、スタッフ一人ひとりの温かさ、地域の素晴らしい魅力。そうした「物語」を、ぜひSNSを通じて発信してみてください。
    画面の向こうには、その物語に心を動かされ、貴施設に泊まる日を心待ちにする、未来のファンが必ずいます。

    まずは、最も合っていると思うSNSを一つ選び、理想のお客様である「ペルソナ」の顔を思い浮かべながら、最初の投稿を始めてみませんか?
    皆様の挑戦が、素晴らしい出会いと成果に繋がることを、心より願っております。

    【用語解説】

    ⁴ インサイト機能: InstagramやFacebookなどが提供する無料の分析ツールのこと。投稿が何人に見られたか(リーチ数)、どれくらいの反応があったか(エンゲージメント)、フォロワーの年齢層や性別などのデータを確認できる。

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