若手が辞めない!旅館・ホテルの人材定着率アップ術

宿泊業界では、若手の人材が定着しにくいという悩みをよく耳にします。
慢性的な人手不足に加え、せっかく採用した若手がすぐに辞めてしまうという状況は、経営を圧迫する大きな要因となります。
しかし、若手が「ここで働き続けたい」と思える職場環境を整えることは決して不可能ではありません。
ホテル・旅館の経営コンサルタントとして、今回は若手人材の定着率を向上させるための具体的な方法をお伝えします。

1. 若手社員が辞めてしまう本当の理由を知る

表面的な理由だけでなく、なぜ若手が辞めてしまうのか、その本質的な理由を理解することが定着率アップの第一歩です。
多くの経営者の方は「給料が低いから」「仕事が大変だから」と考えがちですが、それだけが理由ではありません。

成長機会の欠如

毎日同じような業務の繰り返しで、自分のスキルアップやキャリアアップの道筋が見えないと感じる若手は少なくありません。「このままで自分は成長できるのだろうか?」という不安は、転職を考える大きな動機になります。

コミュニケーション不足と孤立感

特に、若手社員は新しい環境に馴染むのに時間がかかります。上司や先輩とのコミュニケーションが不足していると、困った時に相談できず、孤立感を感じてしまいます。風通しの悪い職場では、疑問や不安を抱えたまま退職へと至るケースも少なくありません。

評価への不満・不透明性

頑張りが正当に評価されていないと感じたり、評価基準が曖昧だったりすると、モチベーションは低下します。どれだけ努力すれば認められるのかが分からない状況は、若手にとって非常にストレスになります。

ワークライフバランスの課題

宿泊業界は、どうしても勤務時間が不規則になりがちです。しかし、プライベートの時間を確保しにくい、休日が取りにくいといった状況が続くと、心身ともに疲弊し、長期的な勤務が困難になります。

企業のビジョンや目標への共感不足

自分が働く会社が何を目指しているのか、どんな価値を提供しているのかが不明確だと、仕事に意義を見出せなくなります。単なる作業として業務をこなすだけでは、長く働き続けることは難しいでしょう。

これらの理由を深掘りし、自社の現状と照らし合わせることで、具体的な対策が見えてきます。

2. 定着率向上のための具体的な施策

若手が辞めてしまう理由を踏まえ、以下の施策を実践することで、定着率を大きく改善できます。
「そんなの忙しくてできないよ」では、今いる社員も辞めてしまうかもしれません。
そうなれば、また輪をかけて忙しくなります。
どこかでこの連鎖を止めなければなりません。
是非、そぐにでも実行に移して頂ければと思います。

2.1. 充実した育成プログラムとキャリアパスの提示

若手は「成長したい」という意欲が非常に高いです。
その意欲に応えるための育成プログラムと、将来のキャリアパスを明確に提示することが重要です。
「まだまだできないだろう」ではなく、今から少しづつでも取り組んでいくことが大切です。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」
山本五十六より

  • 新入社員研修の強化:
    入社後すぐに現場に放り出すのではなく、旅館・ホテル業界の基礎知識、接客マナー、各部署の役割などを体系的に学べる研修を実施します。
    メンター制度(※1)を導入し、OJT(※2)と並行して、若手社員を精神的にもサポートする体制を整えることも効果的です。
    • ※1 メンター制度: 経験豊富な先輩社員が、若手社員の指導・相談役となり、精神面やキャリア形成を支援する制度。
    • ※2 OJT (On-the-Job Training): 実際の業務を通じて必要な知識やスキルを習得させる教育方法。
  • スキルアップ研修の定期開催:
    語学研修、ITスキル研修、専門知識研修(例:ソムリエ、利き酒師など)など、若手社員が自らの興味や目標に合わせてスキルアップできる機会を提供します。
    外部講師を招いたり、e-ラーニング(※3)を活用したりするのも良いでしょう。
    • ※3 e-ラーニング: インターネットを通じて学習する教育システム。
  • キャリアパスの明確化:
    「入社3年後にはこのポジションを目指せる」「〇〇のスキルを習得すれば、将来はマネージャーになれる」といった具体的なキャリアパスを提示します。
    定期的な面談で、若手社員のキャリアプランについて一緒に考え、目標設定をサポートすることで、モチベーションの維持に繋がります。
  • ジョブローテーションの導入:
    複数の部署を経験させるジョブローテーション(※4)は、若手社員が旅館・ホテル全体の業務を理解し、多角的な視点を養うのに役立ちます。
    また、自分に合った仕事を見つけるきっかけにもなり、長期的な定着に繋がる可能性があります。
    • ※4 ジョブローテーション: 一定期間ごとに社員が部署や業務を異動する制度。

2.2. コミュニケーションを促進する環境づくり

風通しの良い職場は、若手社員の孤立を防ぎ、安心感を与えます。
「若手社員はあっさりしていて、時間外はあまりかかわりを持ちたがらないのでは?」
という考えもありますが、最近は逆に若い社員が「先輩が誘ってくれない」「もっとコミュニケーションを取りたい」という場合もあります。
少しづつでも下記に取り組んでいただければと思います。

  • 定期的な1on1ミーティングの実施:
    上司と若手社員が週に1回や月に1回など、定期的に1対1で話す機会を設けます。
    業務の進捗だけでなく、悩みや不安、キャリアについて気軽に相談できる場とすることで、早期の問題発見・解決に繋がります。
  • 意見を言いやすい雰囲気の醸成:
    若手社員からの意見や提案を積極的に受け入れ、尊重する姿勢を示します。
    アイデアソン(※5)やワークショップなどを開催し、部署や役職を超えて自由に意見交換できる場を設けることも効果的です。
    • ※5 アイデアソン: 特定のテーマに対し、短期間で集中的にアイデアを出し合い、具体的な解決策を検討するイベント。
  • 社内イベントの企画:
    歓迎会、懇親会、社員旅行、スポーツ大会など、業務外での交流機会を設けることで、社員同士の絆を深め、チームワークを向上させます。
    若手社員が企画に加わることで、主体性も育まれます。

2.3. 公平で透明性の高い評価制度の導入

頑張りが正当に評価される仕組みは、若手社員のモチベーションを維持し、成長を促します。
えこひいきをせず、しっかりと良い点は褒め、改善して欲しい点は伝えることが大切です。
タイミングも大切で、思い付きでいうのではなく、定期的な取り組みが大切になります。

  • 評価基準の明確化:
    どのような行動や成果が評価されるのか、具体的な基準を明文化し、社員全員に周知します。
    若手社員が「自分は何を頑張ればいいのか」を理解できるようにすることが重要です。
  • 定期的なフィードバックの実施:
    評価結果だけでなく、その理由や改善点について、上司から具体的なフィードバックを定期的に行います。
    良い点は具体的に褒め、改善点については具体的なアドバイスを与えることで、若手社員は成長を実感できます。
  • 多面評価の導入:
    上司だけでなく、同僚や部下など複数の視点から評価を行う多面評価(※6)を導入することで、より客観的で納得感のある評価が可能になります。
    • ※6 多面評価(360度評価): 上司、同僚、部下、顧客など、複数の関係者が評価を行う方法。

2.4. ワークライフバランスの改善

若手社員がプライベートも充実させられる環境を整えることは、長期的な定着に不可欠です。
給料や昇進よりもプライベート重視の社員が増えて来ているのも確かです。

  • 勤務シフトの柔軟化:
    若手社員の希望を考慮したシフト作成や、短時間勤務、週休3日制など、多様な働き方を検討します。
    RPA(※7)やAI(※8)を活用し、定型業務の自動化を進めることで、スタッフの業務負担を軽減し、残業時間を削減することも可能です。
    • ※7 RPA (Robotic Process Automation): 定型的な事務作業をソフトウェアロボットで自動化すること。
    • ※8 AI (Artificial Intelligence): 人工知能。
  • 有給休暇の取得促進:
    有給休暇の取得を推奨するだけでなく、上司が率先して有給休暇を取得する姿を見せるなど、社内全体で取得しやすい雰囲気を作ります。
  • 福利厚生の充実:
    住宅手当、食事補助、健康診断の充実、リフレッシュ休暇、社員割引制度など、若手社員が魅力を感じる福利厚生を拡充します。
    社員寮の整備も、特に地方からの若手社員にとっては大きな魅力となるでしょう。

2.5. 企業のビジョン・目標の共有と浸透

若手社員が自分の仕事に意義を見出し、会社に貢献したいと思えるように、企業のビジョンや目標を明確にし、共有します。
”何のために○○をするのか”が重要になります。
これが無いと若手社員は目的意識を無くし、他社へ行ってしまいます。

  • ビジョン・ミッションの明確化と共有:
    旅館・ホテルが何を大切にし、どんな未来を目指しているのか、具体的なビジョンやミッション(※9)を言語化し、社員全員に共有します。
    定期的に全体ミーティングや社内報で発信し、浸透を図ります。
    • ※9 ミッション: 企業の存在意義や果たすべき使命。
  • 経営層と社員の対話:
    経営層が自らの言葉で会社の方向性や思いを直接社員に伝える機会を設けます。
    社員からの質問にも真摯に答えることで、信頼関係が構築され、会社へのエンゲージメント(※10)が高まります。
    • ※10 エンゲージメント: 社員が会社や仕事に対し、自発的に貢献しようとする意欲や愛着。
  • 社会貢献活動への参加:
    地域清掃活動やチャリティイベントへの参加など、社会貢献活動を通じて、社員が会社の社会的な役割を実感できる機会を提供します。
    仕事を通じて社会に貢献しているという意識は、若手社員のモチベーション向上に繋がります。

3. 定着率向上への道のり:継続と改善が鍵

これらの施策は、一度行えば終わりではありません。
若手社員の声に耳を傾け、PDCAサイクル(※11)を回しながら、継続的に改善していくことが重要です。
1回や2回社員と話をしたからわかってくれているだろうと思うのは間違いです。
何年も、何十年も言い続け、取り組み続けて初めて企業風土や文化が芽吹きます。

  • 社員アンケート・ヒアリングの実施:
    定期的に社員満足度アンケートを実施したり、個別のヒアリングを行ったりして、若手社員が今何を求めているのか、何に不満を感じているのかを把握します。
  • 改善策の実行と効果測定:
    アンケートやヒアリングで得られた情報をもとに、具体的な改善策を立案・実行します。
    その効果を定期的に測定し、必要に応じて施策を見直します。
  • 成功事例の共有:
    定着率向上に貢献した事例や、若手社員の成長を促した取り組みなどを社内で共有し、好事例を横展開(※12)することで、組織全体の改善に繋げます。
    • ※11 PDCAサイクル: Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の4段階を繰り返すことで業務を継続的に改善する手法。
    • ※12 横展開: ある部署で成功した事例やノウハウを、他の部署や組織全体に広めること。

まとめ

若手社員が辞めない旅館・ホテルになるためには、「人」を大切にする経営が不可欠です。
給与や労働条件だけでなく、若手社員が「成長できる」「認められる」「安心して働ける」「ここで働く意味がある」と感じられる環境を整備することが、人材定着率向上の鍵となります。

頑張ってどんどん様々なことに取り組んでいきたい人、プライベートを大切にしたい人など様々な社員がいます。
それぞれを尊重し、その人その人にあった形での取り組みが必要になります。

宿泊業界は、お客様に最高の「おもてなし」を提供する素晴らしい仕事です。
その「おもてなし」の担い手である若手社員が、生き生きと長く働ける職場環境を構築することは、旅館・ホテル全体の活性化に繋がり、ひいては業界全体の発展に貢献すると信じています。

このコラムが、貴社の若手人材定着率向上の一助となれば幸いです。
もし、より具体的な戦略や個別の課題についてのご相談がございましたら、お気軽にお声がけください。

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